JPSJ注目論文

JPSJ 2009年9月号の注目論文

「非弾性中性子散乱実験の新規手法の実証実験に成功
   ― 中性子により視覚化された原子運動情報を自在にズームイン・アウト ―」

非弾性中性子散乱実験は、物質内の原子や原子磁石(スピン)の動きに関するきわめて重要な情報をもたらすが、観測強度が微弱で測定効率が低いというのが大きな問題であった。最近、日本原子力研究開発機構J-PARC (Japan Proton Accelerator Complex) センターの研究グループは、高エネルギー加速器研究機構と東北大学の協力のもと、非弾性中性子散乱実験の測定効率を飛躍的に向上させる実験手法を提案し、J-PARCのパルス中性子源を使った実証実験に成功した。新手法では、中性子の1パルスが物質を通過する際に異なる入射エネルギーをもつ多数の中性子を同時に利用することにより、多様なエネルギーを伴う階層的な 原子運動情報が一度に得られるというものである。J-PARC中性子源の強大なビーム強度と相俟って、本実験手法が中性子による物性研究の全く新しいフロンティアを切り開くことが期待される。
なお、本研究に関連した、山田和芳氏による解説“A New Technique of Neutron Scattering for Hierarchical Dynamics of Materials”がJPSJのNews and Comments欄http://dx.doi.org/10.7566/JPSJNC.6.13に掲載されている。
どなたでもアクセスできるので、ご参照いただきたい。


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「スピン液体状態が実現する正三角スピンチューブの発見」 

正三角形の三つの頂点に位置するスピン間に反強磁性相互作用が存在すると、スピンは三すくみ状態(スピンフラストレーション状態)になる。
 このスピン正三角形をねじれなく積み上げられたのが正三角スピンチューブであり、そこで出現される磁気状態を実験的に検証するためには、歪みのない、文字通りの正三角スピンチューブで構成される現実の物質が必要である。
最近、鹿児島大学真中浩貴氏の研究グループは、フッ素化合物磁性体CsCrF4がほぼ求めるモデル物質であり、十分低温において、個々のスピンの向きは固定されないものの、隣接するスピン間の相対角度(位相)がほぼ一定値をとりながら揺らいでいるという、スピン液体状態とよばれる新奇な磁気状態が出現していることを見出した。本研究によって、スピンフラストレーション系に潜む多様な磁性の解明へ向けた研究がさらに加速されるものと期待される。


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