JPSJ注目論文

JPSJ 2009年11月号の注目論文

「強い磁場によって安定化する超伝導」

超伝導と強磁性はきわめて相性が悪い。強磁性による強い内部磁場が、BCS理論で導入されたスピン一重項のs波超伝導電子対を容易に破壊してしまうからである。ところが最近になって、強磁性相の内部で、スピン三重項の奇パリティ超伝導が出現しているとされる物質が見つかっている。
フランス原子力庁の青木大氏らの研究グループは、そのような強磁性ウラン化合物の一つであるUCoGe の磁場下での物性を調べたところ、特定の磁場方向において超伝導が磁場によって安定化していることを見出した。強磁性超伝導体ならではの新奇な現象であり、強磁性超伝導発現の基本メカニズムの解明につながるものと期待される。
なお、本研究に関連した、A. de Visser氏による解説”Reinforced Superconductivity near a Magnetic-field Tuned Ferromagnetic Instability”がJPSJ のNews and Comments欄に掲載されている。
 どなたでもアクセスできるので、ご参照いただきたい。


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「重い電子系FFLO超伝導の正体」

1957年に発表されたBCS理論では超伝導電子対は運動量を持たないことが仮定されているが、既に40年以上前に、有限な運動量を持つ電子対による超伝導が理論的に提起されていた。提起者の名前の頭文字をとってFFLO超伝導とよばれるこの超伝導が発現しているとされる重い電子系超伝導体のセリウム化合物 CeCoIn5が最近になって見出され、注目されている。新潟大学の柳瀬陽一氏とスイス連邦工科大学の Manfred Sigrist氏は、CeCoIn5の特異な超伝導特性は、その磁気的性質も含めて、反強磁性秩序と共存するFFLO超伝導とする考えによってよく説明できることを理論的に示した。FFLO超伝導・超流動の可能性は固体物理に限らず、レーザー冷却原子気体等でも予想されており、今後の研究の進展が期待される。
なお、本研究に関連した、D. F. Agterberg氏による解説”Fulde-Ferrel-Larkin-Ovchinnikov Phase in CeCoI5?”がJPSJのNews and Comments欄 に掲載されている。
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「“傾斜した”ディラック電子は強磁場中に置かれるとXY強磁性とKosterlitz-Thouless転移を示す」

分子性導体の結晶内電子(準粒子)の有効質量はゼロとなり、そのエネルギー分散関係は円錐構造(ディラックコーンとよばれる)をとる。特に、分子性導体α-(BEDT-TTF)2I3のコーンの軸線は大きく”傾斜”していて、準粒子の速さがある方向に進む場合と逆方向に進む場合とで最大10倍も異なるという特異な状況が実現している。最近、名古屋大学の小林晃人氏らの研究グループは、このような結晶内ディラック電子の強磁場中の電子状態は、”傾斜”によってクーロン相互作用の持つ対称性の一部が破られることから、従来と全く異なるものになることを示し、さらに、その特異な振る舞いは、適切な「擬スピン」を変数として導入すると、XYスピン強磁性とKosterlitz-Thouless転移が出現しているものとして理解できることを示した。
今後、さらに広範な物質に対して「結晶中のディラック電子系」の研究が展開されるものと期待される。
なお、本研究に関連した、長田俊人氏による解説”High-magnetic-field Ground State in 2D Massless Dirac Fermions in an Organic Conductor and Graphene”がJPSJ のNews and Comments欄に掲載されている。
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