会長メッセージ

「外」と「内」に向かう物理学会の努力

9月より、第66期会長を拝命した。
この機に、本年の物理学会誌2月号に執筆した「副会長に就任して」と題する巻頭言を、再度読んでみた。そこには三つの目標を書き、その内、二つに対しては一定の進展があった。 まず、そのことから述べてみたい。

第一の課題は、アジア圏における日本の役割である。アジア圏における日本物理学会の位置づけを明確にすべきだという考えは、副会長就任当初から、私は強く持っていた。世界は、経済的にも学問の世界でも、三極構造を基本として進みつつある。アジア圏が世界の中で占める割合は、今や北米圏や欧州圏とまったく互角になりつつある。しかしながら、アジア相互の連携は少なく、各々の国が独自に動き、お互いの連絡は少ない。一方、欧州物理学会や米国物理学会は、それぞれ、欧州と北米において、それなりの活動をしている。
 そういった観点から、アジア物理学会(注1)の強化を図ろうという動きを始めた。
今年は、アジア物理学会の理事選挙の年である。その機に、少なくとも、韓国物理学会・中国物理学会(北京と台湾双方)、そして、日本でも日本物理学会のみならず応用物理学会、この辺りが歩調を合わせて、「学会と密接に結びついた理事」を選出すべきであろう。これまでは、残念ながら、それぞれの国の学会と結びついた活動をしていなかった。たとえば、今年11月に開催されるアジア物理学会については、どれほどの会員がご存知であろうか?このように、学会活動と全く疎遠になってしまったアジア物理学会を、いかにアジア全体のものにして行くかは、まず、各学会として真剣に取り組まなくてはならない。幸い、私の呼びかけに呼応して、中国も韓国もこの点を認識し始めてくれた。応用物理学会も協力をしてくれている。日・中・韓で協力体制を敷くことができれば健全化の第一歩を踏みだせるのではないかと思っている。

第二の点は、プログレス誌(PTP誌)と日本物理学会英文誌(JPSJ誌)の統合である(注2)。
日本物理学会が発行する英文誌は、歴史的にも重要な役目を果たしてきた。また、重要な論文の発表の場が日本の中にあることは、大へん重要なことだと思っている。日本物理学会では、2013年春に両誌が統合することを正式に決め、これに向けての作業が、急ピッチで進んでいる。目下アンケート結果などを基に、二つの論文誌が過去の歴史も重んじつつ、新たな形態を志向して、種々の検討が進んでいる。本来は、一つの名前の一つの統合誌を目指すべきであろうが、段階的な案として、JPSJは物性領域を中核とする総合誌とし、PTP (あるいは実験を含めてPTEP)は素粒子原子核領域を中核とする総合誌として進めていく案が、一案として検討されつつある。
 近年、論文のオープンアクセス化が進んでいる。これは著者ないし大きな機関が論文誌を支えて、誰でも自由に出版された論文を見ることができるという方策である。一方、論文誌の購読者層を拡大して、投稿料金を無料にすべきだという要求も出ている。こういった相反する要求に対して如何に答えていくかは、両誌統合の際に考慮すべき課題であろう。

上記の二点以外に、物理学会はこれから一年余り、新法人体制への移行に向かって多くの作業を行なわなければならない。私の会長の時期には、この仕事が日常の最も大きな作業になるように思える。すでに、2010年7月の総会で移行の大筋はお認めいただいた。物理学会誌にも、詳しい報告が掲載されている。2011年初頭には、準備を整えて一般社団法人への移行申請を行なう。2012年春までには移行出来ると推測されるが、この間、多くのことに対処しなければならない。
 さらに、今年前半には、事務局のジョブローテーションを実施した。私の副会長時代の仕事の一つであった。10名余りの事務局員業務の固定化は、さまざまな弊害を生む。大貫前会長のサポートを得て、思い切ってジョブローテーションを実施したが、これが如何に事務局業務の効率化に繋がるかは今後を眺めたい。ジョブローテーションは、5年に一度行うこととしたので、これは今後への引き継ぎ事項としたい。

巻頭言に第三の目標として書いた、物理学のアピールというか、物理学を社会に向けて発信することについては、あまり進展はなかった。しかし、折に触れ、このことも考えている。物理学は自然科学の中で最も基礎をなす学問である。そのような物理学の重要性とか、面白さとか、楽しさとか、そういったことをアピールする方策を、日本物理学会は積極的に打ち出すべきであろう。
この点に関しては、引き続き、今後も考えていきたいと思っている。

最後になるが、最近は応用物理学会との会話のチャンスが広がっている。刊行センター(注3)の場所の問題も含め、応用物理学会との連携を積極的に進めていきたいと思っている。
(2010年9月1日)

(注1)アジア太平洋物理学会連合(AAPPS,Association of Asia Pacific Physical Societies)
現在、AAPPSのHPは改装中でアクセスできませんが、AAPPSが発行しているBulletinをこちらのサイトで見ることが出来ます。

(注2)物理学分野で日本を代表する以下の2英文誌の統合問題です。
JPSJ :Journal of the Physical Society of Japan
PTP: Progress of the TheoreticalPhysics
詳しくはこちらをご参照ください。

(注3)日本物理学会と応用物理学会とはそれぞれの英文論文誌を刊行するために共同して刊行センターを運営しています。同センターでは両学会の職員が共同して編集作業を行っています。同センターの概要についてはこちらをご参照ください。

第66期会長
永宮 正治
NAGAMIYA Shoji
日本原子力研究開発機構・高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター センター長
(第66期 会長任期:2010年9月1日より1年間)