会長メッセージ

会長メッセージ

 2013年3月31日から1年間会長を務めることになりました。以下に、物理学会の現状についてどのように考え、69期の1年間どのような問題に取り組みたいと考えているかを記します。

  物理学会は現在約18,000人の会員を擁しています。1946年の日本物理学会の創設時には会員は1,253人でしたから、この67年間に会員数は約14倍になったことになります。この会員数の増加はこの3分の2世紀の間に起こった物理学という学問の深化と拡大に対応しています。専門化が進み、その結果、物理学の全分野を見渡し、それを理解するのは極めて難しくなっています。しかし、物理学の分野が広がっても、根底では同じ原理が支配しているところが物理学の特徴であることを私たちは知っています。例えば、「対称性の自発的破れ」という概念は、物性物理で発見されましたが、南部陽一郎先生によって素粒子物理学でも最も基本的な原理になりました。
  物理学会は会員数から分かるように、規模の大きい学会ですので、これまで築き上げてきたやり方を受け継ぎつつ、必要に応じて改善を加えなければなりません。69期は、68期までの施策を受け継ぎ、着実な運営を心掛けたいと思っています。それと同時に、これまで余り手が付けられていない次の問題を集中的に取りあげたいと考えています。

(1) 「会誌」をよりよいものにする 
 物理学会会員になると、春、秋の物理学会年会、分科会で研究成果を発表できる権利がえられます。また、毎月、「会誌」が手元に届くことになります。「会誌」は会員をつなぐ重要な雑誌ですが、会員の方々は、現在の「会誌」に満足しているでしょうか? 物理学の専門分野が広がり、少し離れた分野のことを知ることすら困難になっているときにこそ「会誌」の役割は大きいはずです。特に、若い会員にとって役に立つ雑誌でなければなりません。これは難しい課題ですが、会誌の編集委員だけに任せないで、理事会も積極的に「会誌」の改善に関与したいと考えています。これまでに「会誌」は優れた邦文の解説を掲載してきました。この伝統を受け継ぎつつ、「会誌」の編集にさまざまな工夫が必要でしょう。この数年間、物理学会では英文誌JPSJ、PTEPについては集中的に検討し、一応軌道に乗りましたので、今こそ和文誌の「会誌」について検討する時だと考えています。

(2) 物理学会のホームページをもっと魅力的にして、活用する
 会員の方々は、毎日さまざまな電子的な情報を利用されていると思います。電子的情報の役割がますます増大しています。物理学会のホームページ (HP) は物理学会からの電子的な情報発信の手段の1つで、最近HPが新しくなり、前より見やすくなりました。しかし、現在のHPに掲載されている情報は会員間の事務連絡がほとんどであって、外部の人にとって見たいと思う情報がほとんどありません。物理学会の目線が内向きではないでしょうか。読みたくなるような情報がなければ、当然、外部からのHPへのアクセスは少ないでしょう。HPは物理学会と物理学会の活動に関心を持つファン、サポーターや社会との橋渡しの役割を果たせるはずです。物理学会からの発信手段としてのHPをもっと魅力的なものにし、HPへの外部からのアクセスを増やしたいと考えています。これにはいろいろなアイデアがあるでしょう。多くの会員の知恵をお借りしたいと思います。すぐにもできることとしては、物理学会が一般向けに開催している「公開講座」「科学セミナー」「市民科学講演会」での講演の活用があります。これらの講演は優れた内容のものが多いので、その講演をビデオ撮影し、ビデオを物理学会HPでの公開することが考えられます。また、講演のために講師に書いていただき、参加者に配布しているテキストがあれば、それに少し手を入れて頂き、その一般向きの解説を公開するというようなことが考えられます。公開の方法としては電子版の雑誌を作って、それを物理学会のHP上に置き、読めるようにしてはどうかと私は考えています。最近はデスクトップ・パブリッシングのソフトが安く手に入ります。それを利用すれば、費用も労力も最小限で済むと思われます。これらを実行するには著作権問題などクリヤーすべき問題があり、それを解決しつつ、物理学会の若い会員の力を借りて前進させたいと考えています。

(3) 若い世代へ物理学を広める
  日本物理学会の事業は物理学の先端的テーマを研究している研究者だけを対象とするものに限りません。物理学会の「定款」を読むと、そこには物理学会の行う事業の1つとして、「物理学関連の教育・人材育成・社会連携などの事業」が挙げられています。物理学会としては、物理学に関心を持つ人(物理のファンと言ってもいいかも知れません)を増やすこと、特に、若い世代に”物理学の考え方、見方”を広めることが重要です。工学、化学、生命科学、数学、情報科学、経済学など別の分野で将来活躍する上でも物理学の考え方は必ず有用であると私は信じています。その意味で物理学の教育は物理学会にとって重要です。現在行っている活動には、例えば、Jr.セッションの開催、物理教育委員会を中心とした活動などがあります。これをさらに強化したいと考えていますが、すべて物理学会単独で行うのは効率的でありませんし、そもそも不可能です。物理教育学会などの関連する学会と連携して活動できればいいと考えています。この問題は”学生の会員を増やす”という物理学会の課題とも深く関連しています。


  上に記したことの外に、海外の学会との交流の1つとしては、2013年7月に日本で開かれる「アジア太平洋物理会議」を、応用物理学会と協力しながら、支援します。また、当然ながら、会員の研究発表の場である年次大会、分科会の開催がスムーズに行われるように努めたいと思っています。

第68期会長
斯波 弘行
SHIBA Hiroyuki
(第69期 会長任期:
2013年3月31日より2014年3月31日)