近年のパーソナルコンピュータのマルチコア化とメモリーの大容量化,ならびに,ソフトウェアの多機能化・高性能化・ユーザビリティの向上により,より現実に近い系・条件の材料についての構造・物性が第一原理量子計算により手軽に実行できる状況にある.特に第一原理計算では,計算の近似・モデルが妥当である系について,構造パラメータで2% 以内,反応熱・弾性物性など全エネルギーに関する物性についても数% 以内で再現・予測できるところまで精度・信頼性が向上している.このことは,材料の合成・評価を主とする実験家が,これらの材料シミュレーションを新しい実験補完ツールとして,あるいは,新材料設計ツールとして利用できることを意味している.一方で,実験家がこれら物理理論に基づくソフトウェアを使いこなすことに対しては高い心理障壁があるのではないだろうか.また,実際に使う場合にも,計算したい対象についてソフトウェアの選択,計算条件の設定,計算結果の妥当線の判断を適切に行う必要がある.
本講座では,幅広い範囲の分子・原子を対象にした材料シミュレーションについて,それらの物理的基礎,材料研究への実際の応用例についてする.一部講義では計算の実演,PCを持ち込める希望者にはMS-Windowsで使えるソフトウェアを用いた演習も行う.
【プログラム】
①「Introduction: 計算材料シミュレーションの現状」
神谷利夫(東京工業大学)
②「Winmostarを利用したMOPACとGAMMESSによる
分子軌法道計算の紹介と実習 (実演・実習あり)」
木原寛(富山大学)
③「第一原理バンド計算の現状、実演と自由実習-PHASEを例に-
(実演・実習あり)」
甲賀淳一郎(アスムス)
④「第一原理計算による熱力学パラメータ算出の基礎と構造予測」
東健司(大阪府立大学)
⑤「第一原理計算による点欠陥の特性、ドーピングの予測」
大場史康(京都大学)
⑥「第一原理計算による電荷輸送シミュレーションの
現状と今後」
浅井美博(産業技術総合研究所)
⑦「第一原理計算による誘電率の計算
(実演・実習あり)」
濱田智之(日立製作所)
⑧「第一原理計算による超伝導、トポロジカル絶縁体の計算」
有田亮太郎(東京大学)
⑨「その他の計算:磁気構造、非晶質、表面、界面」
神谷利夫(東京工業大学)
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