日 本 物 理 学 会

2005世界物理年によせて
--国際会議を宣伝の場に!--

鈴 木 康 夫 [2005世界物理年委員会委員 拓殖大工 e-mail: ]
[日本物理学会誌 Vol.59 No.7(2004)掲載]


みなさんはご存知でしょうか? 高校における物理 IB の履修率が 30% を切ってしまったこと、 物理 II に至っては 13.8% であることを。 化学や生物に対しても苦戦しているようです。高校教育課程実施状況を見ると科目別選択率は、物理IB 25.3%, 化学IB 61.1%, 生物IB 53.5%地学IB 5.5%となっています。しばらく前にいわゆる理科必修時代(1963-1972年)があったことを考えると、驚くべきことだと思いませんか。

大学では、高校で選択してこなかった科目に対する教育制度がまだ十分ではありません。したがって高校で物理を選択しなかった学生は物理を知らぬまま巣立っていく場合が多いでしょう。そうするとこれからは国民の3分の2以上が物理を知らないことになります。 物理学会は「理科教育の再生を訴える」という共同声明や「初等・中等教育レベルにおける物理教育についての要望書」を出し、注意を喚起してきましたが、国民の理科離れは加速しつつあります。

来年は2005世界物理年です。国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)で設定され、 ユネスコで認定されました。IUPAPでも世界の人々が物理への関心を失っていることを心配しています。「一般市民社会における物理学の認知とこの学問が重要であるとの認識が薄れ、物理学を学ぶ学生が激減する」ことのないよう、世界中で物理を盛り上げるお祭りが催されます。日本物理学会も世界物理年委員会を発足させ、「次世代の若者に物理学を知る喜びと学ぶ楽しさを伝える」ために、様々な活動を通して、このお祭りに参加しようとしています。北原委員、久保委員、並木委員がご報告したように、世界物理年委員会では

などへの支援、協力を計画しています。

なぜ我々研究者が直接このようなことをしなくてはならないのでしょうか。日本の理数系7学会は、「初等・中等教育における算数・数学、理科の授業が生き生きしたものであるためには、小学校教育を担う教師が十分な自然科学の素養を持ち、中学・高校教師が十分な専門知識を持たなければならない。しかしながら、大学への受験指導に際して、小学校教員養成系学部は文科系と位置づけられており、数学や理科の十分な習得は要求されていない。さらに、今般の教育職員免許法の改定により、『教科指導』 の必要単位数は半減した。新任教師が、各専門教科の知識が不十分なまま教育現場に赴かざるを得ない事態の生じることを危惧する。教員養成課程における数学・理科教育の充実と教師の再研修制度の積極的な活用を」と訴えています。「理科教育の再生」にはまだまだ長い道のりが必要のようです。当面、若者に物理を知る喜びを伝えるには研究者に頼らなければならない状況のようです。

そこで日本物理学会会員のみなさんに提案です。毎年、多くの国際会議が日本で開かれます。この国際会議も一般市民への物理宣伝の場にしてはいかがでしょうか。普段は研究のための国際会議ですが、世界物理年に限っては、「物理学に対する一般の人々の意識(awareness)を高める」ための宣伝媒体として活用しては、と世界物理年委員会では考えています。

まずは、宣伝として、世界物理年のロゴマークを使用していただくことから始めていただいてはいかがでしょう。このロゴマークは世界各国のWYP2005関連イベントで使用されるものです。http://www.physics2005.org/よりダウンロードできます。日本物理学会は大会、 会誌“BUTSURI", 『大学の物理教育』 で使用します。(お気づきの方もいらっしゃると思いますが、『大学の物理教育』 ではすでに表紙に使用しています。この連載記事にもロゴマークが使用されています。)

さらに物理学会世界物理年委員会では、物理学会主催の大会と同様に、各国際会議においても
(1)一般向けの講演を積極的に催していただきたい、
(2)できるだけ地域の市民や学生に開かれた会議にしていただきたい、
(3)会議の特色を活かして市民や学生に物理をうまく宣伝していただきたい、
と願っております。

以上のことを2005年を待たずに今からでも始めようではありませんか。ご賛同いただけるオーガナイザー、良いアイデアをお持ちの会員の方がいらっしゃいましたら、物理学会世界物理年委員会(物理学会事務局)までご連絡ください。実現へ向けて、できる限りのご支援をしたいと思います。

最後に、物理学は科学技術の基礎であるばかりでなく、現代社会を代表する文化であり、私たちの日常生活に密接に関連している学問であること、自然について理解を深める面白い学問であることを再確認したいと思います。
(2004年3月1日原稿受付)