• HOME
  • 学会活動
  • 米沢賞
  • 第1回(2020年)米沢富美子記念賞受賞者決定について

米沢賞

第1回(2020年)米沢富美子記念賞受賞者決定について

ynzwtate2-mini.jpg

米沢富美子記念賞盾
※米沢富美子ロゴマークは,デザイナー青山茂子氏の作品.米沢富美子 サインは,首都大学東京 森 弘之 氏のご提供によるもの

第1回(2020年)米沢富美子記念賞の受賞者を以下の5名に決定しました。

授賞理由

※50音順/敬称略
氏名

kawaguchi.png

川口 由紀(かわぐち ゆき)

所属先 名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻・准教授
業績名 内部自由度を持った原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体の理論研究
授賞理由

川口由紀氏は、冷却原子気体のボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)に関する理論研究、特に、スピン内部自由度を持ったBEC(スピノールBEC)に着目し、原子の持つスピン自由度により生まれる新奇な物性を探索しする研究を行ってきた。氏の第一の主要な業績は双極子相互作用するBECの研究であり、BECがスピン自由度を持つ場合には(1)スピンから軌道への角運動量の転化現象であるアインシュタイン‐ド・ハース(EdH)効果を引き起こすこと、 (2)基底状態に非一様な磁化構造を作り、超流
動の循環流を生じさせること、(3)双極子相互作用が微弱であってもらせん状のスピン構造を形成することで観測可能であること、を明らかにした。氏の第二の業績はスピノールBECにおけるトポロジカル励起の研究であり、特異点を伴わない3次元線状励起であるノットがスピノールBECで存在可能なことを指摘し、実験的にノットを生成・観測する方法を提案した。これらの氏の研究の特徴は、数学の専門的な内容を多く含む研究であるものの、それを検証するための具体的かつ実現可能な実験を提案しているという点にある。実際に、らせん構造やノットをはじめとする川口氏が提案した実験がいくつも実現していることからも当該分野での波及効果の大きさがうかがい知れる。また、2012 年に執筆したレビュー論文は、スピノールBECの代表的な総説として300件以上引用され、現在、Web of Science で高被引用論文となっている。これらの研究活動に加えて、氏は、中高生に向けた講義をたびたび行うなど、アウトリーチ活動も積極的に行っている。以上のことから、氏は、米沢富美子記念賞にふさわしい、顕著な功績があると考える。

受賞者一覧に戻る

氏名

tokoro.png

所 裕子(ところ ひろこ)
所属先 筑波大学数理物質系・教授
業績名 相転移特性にもとづく新機能物性の開拓
授賞理由

 所氏の研究の出発点は、マンガン鉄シアノ錯体系で見出した大きな温度ヒステリシスを伴う電荷移動型の相転移現象である。これを安定相と隠れた準安定相の間の転移と捉え、格子欠陥密度を調整することで相転移を制御して、低温まで準安定状態を保った相を光照射で安定相に転換できることを示した。同氏はこの現象を「光誘起相崩壊」と名づけ、次に金属酸化物系へと研究を展開した。そこで同氏は、ラムダ型五酸化三チタンにおいて室温で初めて可逆的な光誘起の金属-半導体相転移を見出すことに成功した。この物質はナノ微粒子試料も得られることから高密度光記録材料への応用が期待されている。さらに、ストライプ型の同物質では、室温付近で圧力印加によっても相転移を誘起できることを見出した。チタン配位構造が異なる二相のフォノンモードの第一原理計算も併用して、熱力学的にこの圧力誘起相転移を理解した。この物質は、低い転移圧力や電流でも相転移を誘起できることから、安定なセラミック蓄熱材への応用が大いに期待できる。実際、熱測定によってもその可能性が示されている。
 以上のように所氏は、化学的な手法を駆使して合成した新物質に潜む新しい外場誘起の相転移現象を多彩な物性測定法で探りあて、そのメカニズムを第一原理計算も織り交ぜて熱力学的に解明することで、国際的に高く評価される数多くの業績をあげてきた。それら基礎研究の多くは応用とも密接に関係しており、国内外に30件もの特許を成立させているのも特筆すべき点である。米沢富美子記念賞に相応しい研究者であると認めらる。

受賞者一覧に戻る

氏名

banba.png

馬場 彩(ばんば あや)
所属先 東京大学理学系研究科・物理学専攻 准教授
業績名 X 線・ガンマ線観測による高エネルギー宇宙線の起源とその加速機構の解明
授賞理由

馬場氏は、宇宙線の起源とその加速機構について精力的な研究を行い、X 線天文衛星や TeV ガンマ線望遠鏡 による超新星残骸の観測的研究を中心に多くの成果をあげており、特に超新星残骸を中心とした天体での宇宙線加速効率を求めるなど、 高エネルギー天文学および宇宙線物理学の発展に大きく貢献してきた。その一例として、加速された宇宙線電子の放射するシンクロトロン X 線の空間分布の研究(2003 年)では、超新星残骸 SN1006 衝撃波面の X 線詳細観測から導き出したシンクロトロン X 線の放射領域が熱的プラズマの放射領域 よりもはるかに狭いフィラメント状であることを世界で初めて発見し、これによって宇宙線加速効率が従来の予 想よりはるかに良くなることが示されたことが挙げられる。馬場氏は、さらに研究範囲を X 線よりも 9 桁も高いエネルギーの TeV ガンマ線にまでひろげ、 HESS TeV 望遠鏡のガンマ線研究者と密接な共同研究を組織して、これまで研究が難しかった陽子加速の研究の道を切り拓き、またX 線と TeV ガンマ線という二つの分野の連携を組織的に進め、両分野の発展に貢献している。
研究コミュニティに対する貢献でも、馬場氏は理化学研究所を中心にチームを組織し、解析者と検出器チームの架け橋となるヘルプデスクを立ち上げるなど、大きな寄与が認められる。さらに、日本が国際的に開発を主導し、初期観測で重要な成果をあげた ASTRO-H (Hitomi) 衛星では打ち上げ教育広報チームを任され、一般広報・初等教育・高 等教育の 3 段階に分類した教育広報計画を立てて実行するなど、国際協力における代表としての活躍も著しい。
また、馬場氏は物理学会では夏の学校での実験講師や「科学セミナー」の講師を務め、 加えて日本天文学会では、天文月報編集委員、男女共同参画委員長、そして現在は副会長を務めるなど学会活動も熱心で、広い分野のオピニオンリーダーとして信頼されており、今後もこれらの分野を学問的に牽引するとともに、様々な日本の将来計画の中心として活躍する国際的な研究者として発展していくことは間違いないものと思われる。以上の観点から、馬場氏は第1回日本物理学会米沢富美子記念賞を授与するのに相応しい方だと判断する。

受賞者一覧に戻る

氏名

miyahara.png

宮原 ひろ子(みやはら ひろこ)
所属先 武蔵野美術大学 造形学部 教養文化・学芸員課程研究室 准教授
業績名 太陽活動極小期における宇宙線強度変動の研究および過去の宇宙線変動復元のための新手法開拓
授賞理由

 宇宙線は地球環境に重大な影響を及ぼしている可能性があることが明らかになりつつあり、その変動の全貌を解き明かすことが重要な課題となっている。宮原ひろ子氏は、樹木年輪や氷床コアに含まれる宇宙線生成核種を高精度かつ高時間分解能で分析することにより、過去の宇宙線の変動特性やそれを決定付ける太陽活動の研究を行ってきている。その中で、太陽圏内における宇宙線のドリフト効果により太陽活動の低下時に宇宙線が特異な数十年変動を示すことを発見し、また、その変動が地球の気候に重大な影響を及ぼした痕跡を見つけるなど、顕著な業績をあげている。宮原氏が明らかにした、太陽活動の低下時における太陽活動周期の変化は、太陽ダイナモ機構の理解にも貢献するものである。
 近年は、過去の宇宙線強度変動を精密に復元することができる新たな手法も開拓した。これは今後の宇宙線研究の1つの重要な柱になると期待される。また、一般書を執筆し、講談社科学出版賞を受賞するなど、アウトリーチ活動にも積極的に取り組んできている。以上のように、宮原氏は、第1回米沢富美子記念賞の受賞者にふさわしい研究者である。

受賞者一覧に戻る

氏名

yanagisawa.png

柳澤 実穂(やなぎさわ みほ)
所属先 東京大学大学院総合文化研究科・准教授
業績名 細胞の構造と機能の物理学:実空間モデリング
授賞理由

柳澤氏は、リン脂質膜小胞や高分子液滴を生物細胞の実空間モデルとして扱い、そこに特異的に生じる現象を、ソフトマター物理学の立場から解明する研究を展開された。更にこれらの成果を、様々に応用する研究も行っている。
 脂質膜では、その相分離と変形との関係付けから相分離ドメインの成長についての法則を見出し、分離と変形の同時進展により準安定な相分離パターンが生じることを発見した。これは、細胞膜のミクロドメイン(脂質ラフト)を実体モデル化したものと考えられる。また、脂質膜に覆われた高分子液滴内の相転移現象が、サイズと境界条件により既知のものとは大きく異なることを発見した。これは、細胞の実体物理モデルと考えることができる。こうした知見を用いて、例えば、細胞膜に付着している膜タンパク質を脂質膜へ挿入する際に方向性を付けることなど、従来不可能であった技術の開発にも成功している。これらは、生物学、物理学の双方にとって意義深い独創性の高い成果であり、更に応用面でも大きな可能性を持っている。
 柳澤氏は、これらの成果について単に専門誌で論文発表するばかりでなく、一般向けのメディアを通し、広くアウトリーチ活動を行ってきた。
以上のような特徴ある活動は、米沢富美子記念賞の受賞にふさわしいものである。

受賞者一覧に戻る



第1回(2020年)日本物理学会 米沢富美子記念賞選考経過報告

日本物理学会第1回米沢富美子記念賞選考委員会 *

2019年7月の理事会で米沢富美子記念賞の設立が決定されるとともに授賞規程が定められ、同年7月13日より施行された。これに従い、本賞の選考委員会は日本物理学会第25回論文賞選考委員会(同年6月の理事会にて構成ずみ)が兼任することとなった。同じく規程に従い、8月16日より領域・支部等に受賞候補者の推薦を求め、10月末日の締め切りまでに17名の推薦を受けた。推薦されたすべての候補者それぞれについて、3名の選考委員を担当委員とし、推薦書、業績リスト、主要論文の閲読を行った。すべての閲読結果の報告を選考委員会までに得た。
2019年12月26日の選考委員会では11名のうち8名の選考委員が出席し受賞候補者の選考を進めた。授賞規程に留意しつつ、提出された閲読結果に基づき各候補者の学問的業績、そのインパクトの大きさと将来の展望、また、物理学教育・アウトリーチ活動状況、本会活動に対する貢献などについて詳細に検討した。慎重に議論を進めた結果、上記5名の候補者が第1回米沢富美子記念賞の授与にふさわしいとの結論を得て理事会に推薦し、2020年1月の理事会で正式決定された。




*第1回米沢賞選考委員会

【表彰式終了後公開予定】