会長メッセージ
第81期に引き続きの会長を務めることになりました宮下精二です。第82期も全力を尽くしていく所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
2025年はユネスコの定めた「国際量子科学技術年」であり、物理学会でも多くの企画を進めました。特に6月に未来科学館での物理フェスは、これまで物理学会では経験したことにないタイプのイベントでしたが、関連委員や職員の皆様によって入念に準備され、大好評でした。これまで物理の社会への拡がりを進めることの重要性が言われてきていましたが、今回のイベントは、物理の社会への拡がりを進める画期的なものであったと思います。
私達をとりまく自然現象すべて、つまり森羅万象は、素粒子、原子核、原子分子、その集合体である物質、それらが示す集団運動、さらには宇宙にいたる諸現象が含まれ、さらには、生物物理学、社会経済物理学、情報物理学という分野へも発展しています。今後も、物理学的な考え方や手法が、さまざまな異分野へ展開されていくものと思います。すべての対象に対して、サイエンスとして論理的にその仕組みを考えることは物理学であるとするのは「物理帝国主義」とよばれたりしますが、それはある意味で物理学者の矜持かもしれません。会員の皆様のますますのご健闘を期待しています。物理学会としては、そのための活躍の環境の提供に努めていきます。
年会や分科会などの大会は物理学会が会員の皆様と直接ふれあえる最も重要な事業です。とくに、開催形態(現地、オンライン)や、外国人研究者の参加の円滑化、人材の宝庫と言うべき物理学会員の広い社会進出を拓くキャリアパス (一般、博士人材、外国人対象)などの問題へ積極的に取り組みます。もう一つは、長年検討に手が付けられていなかった領域のあり方についての検討も話題に挙がってきています。刊行に関しては、国際的寡占体制の流れの中で、日本物理学会の主体的発信媒体としての役割をどのように実質的に担保して行くのかなどの検討がなされています。さらには、重要な情報提供媒体であるホームページのリニューアルも進めています。
昨今、日本の学術研究の存在感が国際的に地盤沈下しているという分析もいろいろな所で出されています。実際、物理学会の会員数は2003年をピークに年々減少していており、大変な危機感をもっています。これは、必ずしも日本物理学会だけの問題ではありませんが、将来の物理コミュニティの減少が危惧されます。自然界の不思議への底堅い関心の高さは健在であると信じていますが、物理学をしっかり取り組み、専門家としてその発展を担っていく人がいなくならないように、若手育成、若年層への物理への関心喚起は重要課題です。日本の科学技術を支える研究者の数が減れば、当然、国際競争力が落ちます。このような状態に対し、自然への興味、驚き、そしてそれを解明しようとする自然科学へ取り組みをひろく周知し、その重要性、面白さを広く社会と共有していくことは極めて大事と考えています。そのためには、我々物理学者はじめ科学者自身が真に自然の不思議と向き合い、わくわく感をもってその解明への取り組み、そしてそれによって自然の深遠さ、面白さを各自が広く発信していくことは重要です。それに触発されて、物理、さらにはサイエンスの裾野が広がっていくと思います。
そのため研究者の研究環境の整備などを通し、最先端の研究を力強くサポートすることは物理学会の本務ですが、さらに高校生や大学生など若手をエンカレッジして、物理を研究する面白さとやりがいを広く伝える活動も拡充していく所存です。好評に進んでいるJr.セッションやオンライン物理講話などもさらに充実させ、また物理遺産などの周知によって物理への関心を高めるなどアウトリーチへも精力的に取り組んで行きたいと考えています。このような活動を通して、科学技術水準の向上、発展に貢献できることを願っております。近年、社会においても、「量子」はじめ物理への関心が高まっており、また、幸いなことに基礎科学へのサポートの機運も出てきているように思えます。このような機会に、物理も「今すぐ役に立たない」ことを強調するのではなく、そのわくわく感を発揮することでその実力を発揮すべきチャンスと思います。
最近の急速なAIの進化は,研究活動にも大きな影響をもたらしています。昔は辞典を読んで調べなくてはなかったことが,少し前からWeb検索ができるようになり,それがAIによってさらに便利になりました。その使い方に関しては多くの議論がなされています。確かにAIを使ってレポートを自分で考えずに作ったり,さらには論文らしきものをもっともらしく作るのは問題で,実際にそれらに対する対策が検討されています。しかし,物理自身を進めていく立場からは,AIは大きな助けになりえます。取り組んでいるテーマに関して、答えを聞くのではなく、AIに何をどのように聞けばよいのか考え、また、AIが説明として出力したことの妥当性が判断できる必要があります。考えるのをやめるためにAIを使うのではなく,さらに考えるためにAIを使うために、これまで以上にしっかりした教育が必要になるのではと思います。もし、AIによって思いもかけない結果がえられたときは、それを尋ねた研究者の成果と考えます。
物理学会は今後とも、その公益性を肝に銘じ、経済的、制度的にロバストでサステナブルな経営の維持を心がけて行く所存です。学会運営に関しては、日本物理学会の公益性を鑑み制度としての公益法人化の是非など、多くの検討課題があります。会員数は、減ってきているとはいえ、会員15000を有する大所帯であり、諸問題に関する意見は広く分布します。学会として、どのように会員の皆様の要望に対応できるか真剣かつ慎重に検討を進めたいと考えています。忌憚のないご意見、ご理解、ご協力を引き続きよろしくお願いいたします。また、日本物理学会は、今年度2026年には創立80周年、そして来年2027 年に1878年の東京数学物理学会の創立から150 周年記念を迎えこれらに関する周年記念の企画やシンポジウムを企画しています。多くの皆様の参加をお待ちしています。
- 宮下 精二
- MIYASHITA Seiji
- (第82期 会長任期:2026年3月31日より2027年3月31日)
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