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米沢賞

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第4回(2023年)米沢富美子記念賞の受賞者を以下の3名に決定しました。

第4回(2023年)米沢富美子記念賞の受賞者を以下の3名に決定しました。

授賞理由

※50音順/敬称略

氏 名 2023_takagi.jpg
高木 里奈 (たかぎ りな)
所属先 東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構(物理工学専攻)・助教
業績名 特異な磁気状態を示す多軌道強相関電子系の新物質開拓
授賞理由

 高木里奈氏は、複数の軌道が関わって強相関電子系となる物質群において、そこで現れる特異な磁気状態と多軌道との関わりを明らかにした一連の研究を行い、多軌道系の多彩な物理を明らかにした。まず、単一分子性導体と言われる有機固体であるM (tmdt)2において、金属イオンMの軌道と有機配位子tmdtの軌道との軌道縮退の強さに応じて、常磁性金属、反強磁性または非磁性モット絶縁体、軌道選択モット絶縁体など多彩な強相関電子相をとることを発見した。第2の多軌道強相関物質として、六方晶の遍歴磁性体Y3Co8Sn4や空間反転対称な正方晶の遍歴磁性体EuAl4に注目し、磁気フラストレーションに由来する多重Q(複数の波数を持つ)磁気構造を見出した。特に、空間反転対称性の破れが無くても伝導電子が媒介する四体磁気相互作用によって磁気渦三角格子状態などの多重Q磁気構造が生成することを実証した。以上のように、多軌道強相関電子系の多彩な物理を明らかにした高木氏の業績はきわめて顕著であり、米沢富美子記念賞にふさわしいといえる。

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氏 名 2023_takemura.jpg
竹森 那由多 (たけもり なゆた)
所属先 大阪大学量子情報・量子生命研究センター 特任准教授
業績名 特異電子構造を持つ系における強相関多体効果の理論的研究
授賞理由

 竹森氏は、現実の物質中で発現しうる特異な電子構造と強相関多体効果の絡み合いに注目し、とりわけ質量インバランス系、準結晶系、鉄系超伝導体における創発現象を理論的に研究してきた。特に、強相関準結晶に関する理論的研究では、この分野を牽引する若手研究者として高く評価されている。
 竹森氏が最初に注目したのは質量の異なる冷却フェルミ原子の混合系である。質量インバランスという混合冷却原子系を特長づける自由度に注目し、密度波と超流動が共存する超固体状態の出現可能性を強く示唆する結果を得た。その後行ってきた準結晶系における強相関効果に関する研究が竹森氏を代表する成果である。これは2012年に発見されたAu-Al-Yb準結晶が示す量子臨界性に刺激された研究である。動的平均場理論を用いて、強相関効果と準周期系に特有の幾何学的構造に起因する現象を系統的に解析し、モット転移や超伝導転移などの相転移は準周期系においても唯一に定まる一方で、転移点以下では電子の局所的物理量が準結晶構造を反映した分布を示すことを明らかにした。さらに、この解析を準周期系の超伝導にも拡張した。そこで得られた結果は、その後発見されたAl-Mg-Zn準結晶の超伝導状態と矛盾せず、さらに周期系の超伝導と準結晶の超伝導を区別する指標を与えるものである。最近では、鉄系超伝導体における特異なフェルミ面形状に起因する新奇物性の研究にも精力的に取り組み、鉄系超伝導体に広く共通する性質の解明にむけて重要な足掛かりを与える結果を得ている。
 以上のことから、竹森氏は米沢富美子記念賞にふさわしい顕著な功績があると考える。

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氏 名 2023_taniguchi.jpg
谷口 七重 (たにぐちななえ)
所属先 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 准教授
業績名 素粒子標準模型を超える新物理探索の推進
授賞理由

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)Belle II実験の目的は、電子・陽電子衝突によってB中間子と反B中間子の対を大量生成し、それらの崩壊を用いて、現在の素粒子の標準理論を超える新たな素粒子理論を明らかにすることである。Belle II実験では過去に行われたBelle実験に比べて電子・陽電子の衝突頻度を数十倍に上げるため、各種測定器の改良が必要であった。
 谷口七重氏は、Belle実験でB中間子の稀な崩壊を用いた新たな素粒子理論に対する研究を行い、学位を取得した。その後、Belle II実験の建設に取り組んだ。その中でも、高い計数率の環境下でも衝突点からの粒子の飛跡を測定できるよう、直径2.2 m、長さ2.3 mの新たな中央飛跡検出器(Central Drift Chamber, CDC)を作り変えるプロジェクトに取り組んだ。谷口氏はCDCの信号読み出しエレクトロニクスの研究開発と量産、実装で中核的な役割を果たし、グループの中心となってCDCを建設し、約1万4千チャンネルの信号を読み出し、期待通りの性能を引き出すことに成功した。エレクトロニクスの開発・量産においては国内外の様々な研究者と協力体制を円滑にするために尽力し、性能試験結果と品質基準の最終的な責任を担った。さらにCDCのみならずトリガーやデータ収集システムを含め全体を把握し、他の検出器と合わせてBelle II 測定器を一つのシステムとして動作させる作業を積極的に行い、実験全体に貢献した。こうした活躍が認められ、2019年からはCDCグループのリーダーとなった。さらにCDCの問題解決と安全運転などの貢献により、2021年にはBelle II Best Achievement Awardを受賞した。
 また、谷口氏は高エネルギー物理学研究者会議の将来計画委員会の一員として、素粒子実験業界全体の未来の議論を盛り立てている。また、高校生対象の理系女子キャンプや講演会などを通して科学の楽しさを伝えるなど、アウトリーチ活動も活発に行っている。
 以上の優れた業績と活動は素粒子実験分野の中でも著しく、女性研究者への励みともなり、米沢富美子記念賞に十分に値する。

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第4回(2022年)日本物理学会 米沢富美子記念賞選考経過報告

日本物理学会第4回米沢富美子記念賞選考委員会 *

2022年6月の理事会で第4回米沢富美子記念賞の選考委員会委員10名が決定された。同年7月6日より領域・支部等に受賞候補者の推薦を求め、10月30日の締め切りまでに6名の推薦を受けた。昨年までの選考委員会から繰り越された1名を加えた7名の候補者の各々について2名の委員が推薦書、業績リスト、主要論文の閲読を行い、閲読結果を選考委員会内で共有した。2022年12月26日の選考委員会では欠席委員の査読結果も参考に9名の選考委員により受賞候補者の選考を進めた。各候補者について、研究業績の卓越性、インパクトの大きさや将来の展望、候補者の貢献度、また、物理学教育・アウトリーチ活動状況、本会活動に対する貢献などについて詳細に検討した。慎重に議論を進めた結果、上記3名の候補者が第4回米沢富美子記念賞の授与にふさわしいとの結論を得て理事会に推薦し、2023年1月の理事会で正式決定された。今後とも、優れた女性研究者の推薦・応募を期待する。

*第4回米沢賞選考委員会
委 員 長:川上則雄
副委員長:田村裕和
幹 事: 長谷川修司
委 員:今井正幸、内山智香子、須藤靖、戸田泰則、野尻美保子、古川はづき、山中卓