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米沢賞

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第5回(2024年)米沢富美子記念賞の受賞者を以下の3名に決定しました。

第5回(2024年)米沢富美子記念賞の受賞者を以下の3名に決定しました。

授賞理由

※50音順/敬称略

氏 名
有賀 智子 (ありがともこ)
所属先 九州大学 基幹教育院 自然科学実験系部門 准教授
業績名 コライダーを用いた3世代高エネルギーニュートリノ実験の開拓
授賞理由

 有賀智子氏は、一貫して原子核乾板を用いてニュートリノの研究を推進してきた。
 博士後期課程では米国フェルミ国立加速器研究所で800 GeVの陽子を用いて行なったDONUT実験に参加し、新たなデータの解析手法を開発してタウニュートリノ(3種類あるニュートリノのうちの一つ)の観測数を4事象から9事象に増やし、世界で初めてタウニュートリノの反応断面積を測定した。
 博士号取得後はヨーロッパでOPERA実験に参加し、ミューオンニュートリノが量子力学的な振動によってタウニュートリノに変わる事象を探索した。当初3事象観測されていたが、有賀氏はさらに解析を行なって4事象目を観測し、タウニュートリノへの振動の有意度を3シグマから4.2シグマまで引き上げた。
 その後、ヨーロッパのCERN研究所で陽子と陽子の正面衝突によって作られるTeVオーダーのニュートリノを観測するFASER実験に取り組んでいる。この実験の中でも、原子核乾板を用いたFASERνという実験を共同責任者として提案し、研究所の承認を得て準備を進めた。まず現場に原子核乾板を置いて準備実験を行い、背景事象の多い中でもニュートリノを観測できることを示した。これは陽子の衝突型実験をニュートリノ源として使えることを初めて示したことでも意義がある。完成した実験装置でデータを収集し、2023年に開かれた国際会議において有賀氏は、7事象観測したという初めての結果を招待講演で発表した。既に取得したデータを解析すれば事象数は約100倍になる予定で、TeVオーダーという新たなエネルギー領域でのニュートリノ研究の発展が期待される。
 このように、大規模な国際共同実験においてリーダーシップを取って、原子核乾板を活かしたニュートリノ研究を進めてきた成果と今後の発展性は、米沢富美子賞に値する。

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氏 名
榮永 茉利 (えいなが まり)
所属先 大阪大学基礎工学研究科附属極限科学センター・助教
業績名 高圧力下で高い超伝導転移温度を示す水素化物の実験的研究
授賞理由

 室温超伝導の実現は物理学の長年にわたる大きな夢である.近年,高圧力下の水素化物で,最高でも銅酸化物超伝導体の100ケルビン台にとどまっていた従来より極めて高い超伝導転移温度が発見されたことから,特に注目を集めている.榮永茉利氏は,200ケルビンを超える超伝導転移温度を持つことがはじめて示された硫化水素が,体心立方構造のH3Sであることを,放射光を使った結晶構造解析と電子輸送特性測定を組み合わせた計測で実験的に明らかにした.さらに榮永氏は,高圧力下のレーザー加熱によって高純度での合成に成功したH3S試料に対する測定を行い,この結論を確かなものにした.これらの発見は超伝導研究の歴史における重要な成果であり,その後の室温超伝導探索研究を促進したと評価できる.榮永氏はこの特筆すべき成果に加え,テルル化ビスマスやランタン水素化物など他の物質についても圧力誘起超伝導の研究で多くの成果を挙げており,氏の卓越した実験技術や,進行中の国内外の共同研究により,物性物理学へのさらなる貢献が今後も期待できる.このように,榮永氏は米沢富美子記念賞の受賞に値する人物であるといえる.

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氏 名
田財里奈 (たざいりな)
所属先 京都大学 基礎物理学研究所 助教
業績名 電子相関と幾何学的フラストレーションに由来する新規量子相転移の理論研究
授賞理由

 田財里奈氏は、電子間の相互作用の影響が支配的な強相関電子系において、従来の平均場的な取り扱いを超え、高次の電子相関効果を取り込むことが必要ないくつかの現象において顕著な業績を上げられた。具体的には、汎関数繰り込み群理論を用いて、高次の電子相関による遷移金属化合物の軌道秩序や、軌道揺らぎによる非従来型超伝導が発現することを数値的に示した。特に、多極子自由度が顕著である重い電子系超伝導体CeCu2Si2において、電気16極子揺らぎによる引力相互作用によりs波超伝導が発生する機構を提案し、報告された実験を説明した。従来CeCu2Si2では、d波超伝導が起きると考えられてきたが、田財氏の理論によって、実験で観測されたs波超伝導を説明できたことは独自性の高い成果である。具体的な計算手法においても軌道秩序を有効に計算する独自の手法を開発している。これらの一連の研究は、田財氏が開発した理論が高次の電子相関効果を記述する有効な手法であることを示したもので、そのプログラムの改良と物理的な探求は物性理論研究において顕著であり、米沢富美子記念賞にふさわしいと評価する。

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第5回(2024年)日本物理学会 米沢富美子記念賞選考経過報告

日本物理学会第4回米沢富美子記念賞選考委員会 *

2023年6月の理事会で第5回米沢富美子記念賞の選考委員会委員10名が決定された。同年7月4日より領域・支部等に受賞候補者の推薦を求め、10月31日の締め切りまでに3名の推薦を受けた。昨年までの選考委員会から繰り越された4名を加えた7名の候補者の各々について2名の委員が推薦書、業績リスト、主要論文の閲読を行い、閲読結果を選考委員会内で共有した。2023年12月15日の選考委員会では10名の選考委員により受賞候補者の選考を進めた。各候補者について、研究業績の卓越性、インパクトの大きさや将来の展望、候補者の貢献度について詳細に検討を行った。加えて、物理学教育・アウトリーチ活動の状況や本会活動への貢献などについても検討した。慎重に議論を進めた結果、上記3名の候補者が第5回米沢富美子記念賞の授与にふさわしいとの結論を得て理事会に推薦し、2024年1月の理事会で正式決定された。今後とも、優れた女性研究者の推薦・応募を期待する。

*第5回米沢富美子記念賞選考委員会の構成員は表彰式後に公開予定