JPSJ注目論文

JPSJ 2020年5月号の注目論文: 量子多体系に挑むための機械学習手法の機能拡張

量子多体問題という難問に立ち向かうための新たな武器として機械学習が注目されている。量子多体ハミルトニアンの固有状態である量子多体波動関数の本質を学習し、莫大な(指数関数的に大きな)サイズの次元を持つ多体波動関数をコンパクトに精度よく表すという試みである。この機械学習手法を拡張してフェルミオン・ボソン結合および励起状態計算への適用を可能にし、かつ、既存手法を超えた高精度解析が可能であることが示された。これにより、機械学習手法のさらなる発展への弾みがついた。今後はベンチマークを超え、未解決の量子多体問題へ応用することで、量子多体系の理解促進につながると期待される。

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原論文は以下からご覧いただけます。
Machine Learning Quantum States -- Extensions to Fermion-Boson Coupled Systems and Excited-State Calculations
Yusuke Nomura, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 054706 (2020).

JPSJ 2020年5月号の注目論文: 量子渦運動の数値計算のための新手法

ゲージ場下の量子現象(量子渦の発生・運動・相互作用など)を記述する時間発展方程式を,効率よく高い精度で解くことができる新しい陽的数値積分法が提案された.この手法は数値的安定性が高いことが大きな特徴のひとつである.提案された手法は,超伝導体内の量子化磁束や回転超流体内の量子渦の振る舞いに関する数値計算に適用され,その有効性が確認された.

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Explicit Integrators Based on a Bipartite Lattice and a Pair of Affine Transformations to Solve Quantum Equations with Gauge Fields
Tetsuya Matsuno, Edmund Soji Otabe, and Yasunori Mawatari, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 054006 (2020).

JPSJ 2020年5月号の注目論文: 超伝導の「入れ子」-ウラン化合物の多重超伝導-

東北大学金属材料研究所とフランスCEA-Grenobleの研究チームは、超伝導相が一様ではなく、内部に多様なタイプの超伝導相が含まれているという極めて特異な現象をウラン化合物UTe2で見出した。UTe2単結晶の熱容量を精密に測定し、その温度、磁場相図の圧力依存性を系統的に調べることで明らかにした。それぞれの超伝導相では対称性の異なる超伝導状態が実現していると考えられる。これまで平行スピン対のスピン三重項超伝導と考えられてきたUTe2が、実はもっと多様な状態を持つスピン三重項超伝導体であることを示している。スピン三重項超伝導はトポロジカル超伝導の一形態であり、次世代の量子コンピュータのプラットフォームと考えられている。そのため、UTe2は、「量子コンピュータのシリコン」と期待されるなど、応用も見据えた興味が持たれている。基礎研究として超伝導状態を明らかにした今回の成果は、超伝導の応用への新たな方向性につながるものである。

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原論文は以下からご覧いただけます。
Multiple Superconducting Phases and Unusual Enhancement of the Upper Critical Field in UTe2
Dai Aoki, Fuminori Honda, Georg Knebel, Daniel Braithwaite, Ai Nakamura, DeXin Li, Yoshiya Homma, Yusei Shimizu, Yoshiki J. Sato, Jean-Pascal Brison, and Jacques Flouquet, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 053705 (2020).