JPSJ注目論文

JPSJ 2025年2月号の注目論文:二光子によって長生きする量子コヒーレンス現象

二準位原子の多光子光学遷移によるラビ振動を、励起光の量子性を完全に考慮して解析することによって、サブミリ秒の長時間に渡りラビ振動の消失と復活が繰り返し観測されること、その原因二光子遷移に特有のラビ周波数の光子数依存性であることが示された。この知見は、二準位系を量子ビットとする量子情報分野にも大いに役立つことが期待できる。

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The Long-Time Behavior of Collapse-Revival Effects in a Multi-Photon Jaynes-Cummings Model
Shiyao Chong, Xiaolan Liu, Yanzhen Han, Jingjing Du, Jianxiao Liu, Linghui Meng, Yacheng Gao, Changbo Yang, Jian Qi Shen, Junliang Zhang, and Ling Li, J. Phys. Soc. Jpn. 94, 024402 (2025)

JPSJ 2025年2月号の注目論文:濃厚コロイド懸濁液のダイナミクスに潜む流体効果

溶媒を介した流体力学的相互作用(Hydrostatic Interactions: HIs)は、コロイド懸濁液のダイナミクスを理解するうえで、しばしば無視できない効果を与えるが、十分濃度が高い系においては長距離で十分に遮蔽されるために、濃厚コロイド懸濁液研究ではしばしば HIsを無視したモデルが用いられてきた。本研究では、過冷却状態にある濃厚コロイド懸濁液において、HIsの有無による緩和ダイナミクスの直接的な比較・検討を行い、Hisが緩和ダイナミクスを加速させること、さらにダイナミクスの経路そのものが質的な変更を受けることを見いだした。

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Impact of Hydrodynamic Interactions on Structural Relaxations in Dense Colloidal Suspensions: Helping the Cage Breakage
Junpei Noji, Akira Furukawa, J. Phys. Soc. Jpn. 94, 023801 (2025).

JPSJ 2025年2月号の注目論文:表面に蓄積した電荷でモット絶縁体がバルクに金属化

モット絶縁体Ca2RuO4の室温かつ低電場の絶縁体‐金属転移を用いた次世代デバイス「モットメモリ」の実現が期待されている.しかし,これまでの実験ではジュール発熱の影響を完全に排除した議論が困難であった.最近、Ca2RuO4 単結晶表面に電気二重層トランジスタ(EDLT: Electric Double-Layer Transistor)技術を用いて,電流を伴わない純粋な電場効果による金属化が実現された.この研究は電場誘起モット転移の新奇性を活かしたデバイス実現に寄与するだろう.


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Metallisation of the Mott Insulator Ca2RuO4 Using Electric Double-Layer Gating
Tatsuhiro Sakami, Hiroki Ogura, Akihiro Ino, Takumi Ouchi, Tsutomu Nojima, and Fumihiko Nakamura, J. Phys. Soc. Jpn. 94, 023703 (2025).


JPSJ 2025年2月号の注目論文:自然界最小の磁気渦を初めて見る

電子スピンの渦構造である磁気スキルミオンは、次世代磁気メモリやニューロモルフィックコンピューティングなどへの応用が期待されている。超高密度な情報素子実現のためはスキルミオンサイズの小型化が重要な課題であり、極小スキルミオンを形成する固体物質の探索が近年盛んに行われている。放射光を用いた共鳴X線散乱実験によって単純な六方晶の結晶構造を有する二元合金GdGa2の短周期のらせん磁気構造が明らかになった。そこでは、直径わずか1ナノメートルという世界最小の磁気スキルミオンの存在が提唱されている。

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Triangular Lattice Magnet GdGa2 with Short-Period Spin Cycloids and Possible Skyrmion Phases
Priya Ranjan Baral, Nguyen Duy Khanh, Masaki Gen, Hajime Sagayama, Hironori Nakao, Taka-hisa Arima, Yoshichika Ōnuki, Yoshinori Tokura, and Max Hirschberger
J. Phys. Soc. Jpn. 94, 024705 (2025)