日本物理学会誌

第71巻 第8号

cover-16-08.jpg■表紙の説明
流体の粘性が小さいとき,その運動は複雑化し,乱流となる.これはほぼ正しい命題であるが,補足説明が必要である.現実の流体はもちろん3次元であるが,惑星規模の流れのように,2次元流であるとみなせるものもけっこうある.こうした流れでは,完全に乱れきった一様な乱流というものは必ずしも見いだされない.むしろ,十分に時間がたった後では,時間的には不規則であるが,空間パターンはおとなしいということもある.こういった現象の極地にあるのが,ナヴィエ・ストークス方程式の単峰解である.流れ関数を見てみると,表紙の上部のようにギザギザした解も見られるが,時間的に定常で,下部の図のように峰がひとつ底もひとつといった単純な解も見つかるのである.不思議なことにこうした単調な形状を示す解が粘性の極めて小さいところで現れるのである.さらに,様々に外力が変わっても現れるという意味で,こういった単峰解が普遍的であることもわかりつつある.詳細は本号に掲載されている岡本久氏の「交流」記事を参照のこと.

■巻頭言
物理教育委員長として:「公開講座」と「物理教育シンポジウム」
香取浩子 ...... 519

■物理学70の不思議
超大質量ブラックホールはどのようにできたのか?? ...... 522
ヒッグス粒子の背後にある物理は何か? ...... 522
20XX年宇宙の旅:クォークから原子核,そして宇宙へ ...... 523
異質な物質同士の理想の出会いとは? ...... 523

■現代物理のキーワード
数え上げ不変量の母関数から見えてくるもの  菅野浩明 ...... 524

■交 流
巨大渦の安定性―2次元非圧縮高レイノルズ数の流れの中で
岡本 久 ...... 526

■解 説
モット転移と高温超伝導体の電子状態―ハバードモデルからの新展開
河野昌仙 ...... 533

■最近の研究から
絶縁層に極性分子をもつ有機超伝導体  川本 正,森 健彦 ...... 541

電子の電気双極子モーメント測定のための相対論的量子化学理論の開発
阿部穣里 ...... 547

■話 題
第71回年次大会の仙台開催奮戦記  須藤彰三 ...... 552

■JPSJの最近の注目論文から
4月の編集委員会より  上田和夫 ...... 554

■変わりゆく物理学研究の諸相
―日本物理学会設立70年の機会に日本における物理学研究の転換点をふりかえる―
量子力学が導いた新しい風  伊藤憲二 ...... 558

■学会報告
第71回年次大会(2016年) 招待・企画・チュートリアル講演の報告
領域委員会 ...... 563

■学界ニュース
第106回日本学士院賞:森田浩介氏  玉尾皓平 ...... 569
科学技術分野の文部科学大臣表彰 ...... 569

■新著紹介 ...... 570
20世紀物理学史;理論・実験・社会(上)
20世紀物理学史;理論・実験・社会(下):廣政直彦
アト秒科学;1京分の1秒スケールの超高速現象を光で観測・制御する:芦原 聡