日本物理学会誌

第75巻 第3号

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■表紙の説明
通常の物質は温度が下がると縮む.しかしごく希に「低温に向かって体積が膨張する」不思議な物質も存在する.その典型例である,逆ペロフスカイト型マンガン窒化物が示す不思議な現象,すなわち負の熱膨張現象の概念図を表紙に示した.基礎と応用の両方の観点から精力的に研究されてきたこの現象は,長い研究の歴史にも関わらず未解明な部分が多い.この化合物の負熱膨張現象のメカニズムも,現象の発見から半世紀を経てなお大きな謎として残っていた.しかし,1980年代の高温超伝導フィーバーに端を発する「強相関電子系の研究」は,物質中の電子が持つ電荷,スピン,軌道の自由度と格子自由度の競合・協奏が織りなす物性現象の理解を深化させ,その知識の蓄積はついに,この化合物における反強磁性秩序と結晶格子のカップリングが引き起こす「磁性誘起負の熱膨張現象」の解明をもたらすこととなる.詳細は本号に掲載されている望月維人氏の「解説」記事を参照のこと.


■巻頭言
JPSJ編集委員長へ就任して  宮下精二 ...... 125

■最近のトピックス
量子コンピュータを用いた量子超越実験で示されたこと  藤井啓祐 ...... 128

■解 説
温めると縮む磁石の謎がついに解けた!  望月維人 ...... 130
チャープパルス増幅と位相制御による超高速・高強度光科学  加藤義章,森 芳孝 ...... 139

■最近の研究から
薄膜太陽電池材料BaSi2の光・電子物性に迫る――高光吸収・低トラップ電子構造への期待
今井基晴,梅澤直人 ...... 148
光起電力の新しい量子力学的描像「シフト電流」
小川直毅,五月女真人,中村優男,森本高裕 ...... 154

■JPSJの最近の注目論文から
11月の編集委員会より  宮下精二 ...... 160

■ラ・トッカータ
岐阜大学で開催された2019年秋季大会(物性)を振り返って  青木正人 ...... 164
山形大学での2019年秋季大会(素核宇)開催の顛末      岩田高広 ...... 166

■学界ニュース
第23回久保亮五記念賞:越野幹人氏      齋藤理一郎 ...... 168
第65回仁科記念賞:岩佐義宏氏        下谷秀和 ...... 168
第65回仁科記念賞:吉田 滋氏,石原安野氏  村瀬孔大 ...... 169

■学会報告
2019年秋季大会 招待・企画・チュートリアル講演の報告  領域委員会 ...... 171

■新著紹介 ...... 177
電気伝導入門:塩見雄毅
共鳴型磁気測定の基礎と応用;高温超伝導物質からスピントロニクス,MRIへ:開 康一
スピントロニクス入門;物理現象からデバイスまで:中山裕康