日本物理学会誌

第76巻 第1号

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■表紙の説明
自発的対称性の破れがある磁性体の準粒子の振る舞いは,位相モードと振幅モードで記述されることがよく知られている.一方,フラストレート磁性体のノンコリニア磁気秩序においては,これら2つのモードが混成する新しい状態の存在が,量子臨界点近傍において予想されていた.表紙は,圧力誘起相転移を示す三角格子磁性体CsFeCl3の温度圧力相図に,磁気状態と中性子スペクトルを重ね書きしたものである.低圧の無秩序相においては縮退したモードが観測されたが,高圧のノンコリニア秩序相においては縮退が解けた上に,モードのanticrossが観測された.このことは,秩序相においては位相モードと振幅モードが混成していることを示している.詳細は本号に掲載されている益田隆嗣氏らの「最近の研究から」記事を参照のこと.

■巻頭言
会長メッセージ     永江知文 ...... 1

■解 説
アトムトロニクス  内野 瞬 ...... 4

■最近の研究から
イベント形状を用いてヒッグス粒子のCPと結合定数を測る   竹内道久 ...... 13
単一タンパク質分光でみえる光合成の光反応制御に関わる複数のタンパク質構造揺らぎ
近藤 徹 ...... 17
フラストレート量子磁性体におけるヒッグス振幅モードと位相モードのハイブリッド励起
益田隆嗣,林田翔平,松本正茂 ...... 23
量子乱流状態における超流動の2流体模型――量子渦と熱励起成分の相互作用が引き起こす奇妙な現象
湯井悟志,小林宏充,坪田 誠 ...... 28

■話 題
T2K実験,ニュートリノ振動で物質-反物質の非対称性の謎に迫る  横山将志 ...... 34

■JPSJの最近の注目論文から
9月の編集委員会より   宮下精二 ...... 39

■PTEPの最近の注目論文から
2020年8,9月号より   米谷民明 ...... 42

■歴史の小径
上田良二と電子線物理学の発展  田中信夫 ...... 45

■ラ・トッカータ:あの研究の誕生秘話
あの研究の誕生秘話         ...... 48
リチウムイオン電池の始まり  水島公一 ...... 48

■学界ニュース
2020年ノーベル物理学賞:
R. Penrose氏「一般相対論にもとづくブラックホール形成の確固たる予言」;
R. Genzel氏,A. Ghez氏「天の川銀河中心の超巨大高密度天体の発見」
田中貴浩 ...... 51
第14回湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞:福嶋健二氏
初田哲男 ...... 52

■新著紹介 ...... 53
ハドロン物理学入門:堀 正樹