■表紙の説明
表紙の上の図は，中緯度に異常気象をもたらす「ブロッキング現象」，すなわち偏西風の大蛇行の一例である．中緯度の対流圏上部には，偏西風と呼ばれる西風が常に吹いており，これに高低気圧が流されて東進するため，天気は通常周期的に変化する．しかし，時おり偏西風の蛇行が局所的に増大・定常化し，後続の気象擾乱の東進が阻まれて異常気象が持続することがある．この状況をブロッキング現象と呼ぶ．ブロッキング現象は予報が難しいうえ，発生原因もよくわかっておらず，気候変動との関連も未解明である．今回，波と流れの相互作用に関する流体力学の理論と気象データに基づき，偏西風蛇行に関する簡易化された空間1次元のモデルを開発した．このモデルは高速道路の渋滞予想のモデルと数学的に同等であり，ブロッキング現象はいわば偏西風上の波動の交通渋滞であると理解されることが示された．気候変動との関連にも応用が期待される．詳細は本号に掲載されている中村昇氏の「交流」記事を参照のこと．

■巻頭言
研究環境検討委員会委員長として　　石田武和 ...... 513

■交　流
気候変動とブロッキング現象　　中村昇 ...... 516

■最近の研究から
ブラックホール表面積上限定理の一般化――強重力から弱重力へ ...... 525
X線分光で見るクラスター磁気八極子　　木俣基，雀部矩正 ...... 530
反射高速電子回折法で複雑な表面構造をモデルフリーに決定　　青山大晃，虻川匡司 ...... 536
非調和フォノン理論が拓く有限温度物性の第一原理計算　　只野央将 ...... 542

■歴史の小径
哲学者たちは天体になにを見たのか――自然哲学史の新たな理解に向けて
アダム・タカハシ ...... 548

■ラ・トッカータ
2022年秋季大会（物性，東京工業大学大岡山キャンパス）の開催報告　　斎藤晋 ...... 552

■JPSJの最近の注目論文から
5月の編集委員会より　　宮下精二 ...... 554

■PTEPの最近の注目論文から　　林青司 ...... 557

■新著紹介
物理数学II；フーリエ解析とラプラス解析・偏微分方程式・特殊関数　　古川俊輔 ...... 560