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日本物理学会誌

会誌Vol.78(2023)「新著紹介」より

このページでは、物理学会誌「新著紹介」の欄より、一部を、紹介者のご了解の上で転載しています。ただし、転載にあたって多少の変更が加わっている場合もあります。また、価格等は掲載時のもので、変動があり得ます。

これならわかる機械学習入門

富谷昭夫

講談社,東京,2021,x+244p,21 cm×15 cm,2,640円[大学院・学部向]ISBN 978-4-06-522549-3

紹介者:斎藤弘樹(電通大情報理工)

本書のタイトルだけを見ると,情報系の学生向けの入門書なのかな,と思ってしまうが,実は物理系の学生向けに書かれた本である(著者自身も前書きで述べている).しかも,この本の最終目標は,2017年にNature Physics誌に掲載された,機械学習を物理学へ応用する先駆けとなった画期的な論文の結果(の一部)を再現するというものであり,物理系の学生の好奇心を大いにかき立てるものである.この最終目標にたどり着くべく,様々な事柄が基礎から親切に解説されており,大学初年次レベルの初学者でも無理なく読み進めていくことができる.そして,最後には研究の最前線の雰囲気が味わえるという贅沢な構成となっている.

内容を詳しく見ていこう.序盤ではまず,線形代数や確率論など機械学習に必要な数学について基礎から解説されている.基礎的な事項だけでなく,赤池情報量基準など,他の入門書では触れられない事項も含まれているのが特徴的である.そして,ニューラルネットワークとその最適化について,これも基礎から丁寧に解説されている.誤差逆伝播のところで,敢えて泥臭い計算をさせるところなどは教育的である.機械学習の標準言語はPythonであるが,Pythonに馴染みのない読者のために,基礎文法を解説する章まで設けられているのは大変親切である.

読者は単に本書を読み進め,実践していくだけで,機械学習フレームワークTensorFlowも使えるようになる.PythonもTensorFlowも無料で使えるので,学生にはありがたい.最後に,イジング模型の統計力学とモンテカルロ法が解説され,Nature Physics論文の再現という大団円を迎える.

このように本書は理論だけでなく,実践も重視した構成となっている.機械学習に興味を持つ物理系の学生はもとより,機械学習の物理への応用例を手っ取り早く学び,実践的な知識を身につけたい研究者にもおすすめできる.数学,機械学習,プログラミング,統計力学など解説される項目があまりにも幅広いため,個々の説明が不十分と感じるところもなくはないが,これは仕方のないことだろう.本筋は丁寧に説明されているので問題ない.本書のもう一つの特徴は,脚注や章末のコラムが結構面白い点である.著者の個性が出ており,これだけ拾い読みしても楽しい.

冒頭で述べたが,本書のタイトルだけからは物理系の読者向けに書かれた本だとはわからず,装丁からもそのような雰囲気が感じられないので,書店で見過ごされてしまうのではないかと心配である.計算機に関心を持つ物理系の学生には是非手に取ってもらいたい.私も昔その一人であったが,もし学生の時にこのような本に出会っていたら,夢中になって読んだであろう一冊である.
(2022年7月5日原稿受付)

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Physics of Dusty Plasmas; An Introduction

A. Melzer

Springer, Heidelberg, 2019, x+235p, 24 cm×16 cm, €49.66(Lecture Notes in Physics 962)[大学院向] ISBN 978-3-030-20259-0

紹介者:三瓶明希夫(京都工繊大)

微粒子(ダスト)プラズマは,一般にはミクロンオーダーの大きさの多数の微粒子がプラズマに浮遊している状態を指す.土星の環に見られるような宇宙空間での微粒子の構造形成や,半導体製造のプラズマプロセス中に生じる微粒子は,よく知られる微粒子プラズマの例である.微粒子プラズマではクーロン結晶や遮蔽効果・波動・相転移のような集団運動を可視化することが容易であり,学術的な観点からも精力的に研究が行われてきた.また近年は新しい展開を見せており,微粒子での核融合プラズマにおける乱流制御,アミノ酸の合成,新規ナノ粒子や機能性材料の創成など,様々な分野で成果が出つつある.微粒子プラズマの科学・工学の体系化を目指した取り組みの中で,物理はこれらの基礎を形づくるものであり,深い理解を必要とされる領域であることは論を俟たないであろう.

本書"Physics of Dusty Plasmas"の著者であるProf. André MelzerはGreifswald大学のColloidal(Dusty)Plasma Groupに所属しており,本書は大学での大学院生向けの講義を元に編まれたものである.それゆえか,本書はプラズマ中の微粒子の帯電等の基礎的な事項から出発しつつ,タイトル通りに物理に重点を置く内容となっている.微粒子の帯電,作用する力と閉じ込め手法,相互作用,結晶化と相転移,波動現象などの集団運動,外部磁場の効果など,微粒子プラズマの基礎物理的な事項に紙面を多く割いており,これらの広範な内容を,分かりやすい図表と比較的平易な式で丁寧に解説している.なお,これらの章での議論は基本的に球形微粒子を想定した内容に限定されており,非球形微粒子等の帯電や,表面構造の効果などに触れていないのが残念であるが,本書で取り扱うにはややアドバンストすぎるとの判断なのであろう.

後半は物理から離れ,計測手法,工学的応用,惑星現象に現れるダストプラズマについても説明されている.第10章の「Diagnostic Methods in Dusty Plasmas」では様々な計測手法が紹介されており,個人的に興味深く読ませていただいた.特にこの章は多くの図表と具体例が記載されており,また,最新のものも含めて参考文献が豊富に引用されており,興味を喚起された読者には親切な構成になっている.第11章の「Particle Growth in Dusty Plasmas and Applications」と第12章の「Astrophysical Dusty Plasmas」は,本書では応用的な位置付けで配置されており,これらの領域の現象の概観と個々のトピック紹介の面が強い.「核融合装置の中のダスト」や「土星のリングに見られるスポーク構造」等もここに記述されているが,それぞれの事象に付いての掘り下げた記述がやや乏しく,テーマの選択も系統的ではないので,それぞれの話題を純粋に楽しみつつ,興味を喚起された研究については,より専門的な文献を読むという姿勢が適している.

全体的に図を多用して読みやすく書かれているが,読み進めるにあたって,基礎的なプラズマ物理の知識があることが望ましい.加えて,電磁気学・解析力学の知識を必要とする.難易度としては基礎的な教科書と専門的な論文の中間程度であり,意欲のある大学院生の勉強に適しているであろう.上述のように,本書は微粒子プラズマの物理について意欲的に纏めた本であり,学生や非専門家の入門書として適した好著である.
(2022年6月30日原稿受付)

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一歩進んだ理解を目指す 物性物理学講義

加藤岳生

サイエンス社,東京,2022,v+212p,26 cm×18 cm,2,640円(SGCライブラリ-173)[大学院向]ISBN 978-4-7819-1533-3

紹介者:鈴木通人(東北大金研)

本書は著者による大学院での物性物理学の講義に基づいて執筆された教科書で,大学院の物性物理学の講義で教えられる標準的な内容がテーマとして選ばれています.固体の電子状態や物性をミクロな観点から理解する方法が明瞭な論理で提供されており,量子力学を一通り学んだ物性系の学部4年生や大学院生に広く勧められます.また,現実的な物性モデルを扱う研究において有用な概念と研究手法の解説に詳しく,紹介者の専門である,第一原理計算を応用した物性研究分野に新たに参入を考える研究者にも,各種の概念・手法を見直す上で有用な書であると思います.第二量子化による記述を積極的に行っている点,式の導出に際して背景にある物理の説明に重点が置かれている点のほか,本書中に多数散りばめられた脚注に著者の所感や現代的な研究につながる示唆,有用なプログラム・Webページの紹介などを含む点が,本書をユニークなものにしています.

第1章は第二量子化の説明に割かれていますが,第一量子化による一粒子状態の記述との繋がりが明確に説明されていて,量子力学の初歩を学んだ学生が第二量子化による多電子状態の記述を学ぶ上で良い手引きとなっています.現在,第一原理計算パッケージは理論家のみならず実験研究者にまで有用な研究ツールとして普及していますが,これらの汎用パッケージを使って物性研究に取り組む学生や研究者には,実践的な道具として場の量子論に触れる機会がない方もおられると思います.近年,第一原理計算からタイトバインディング模型を構築する汎用プログラムが提供されたことで,比較的単純なハバード模型などを土台として発展してきた高度で計算コストの高い理論手法が現実的な物質の有効模型にも適用されるようになり,物質の多体効果の研究が大きく進展しています.このような現代物性研究の背景のもと,本書は物性物理の基本的内容を場の量子論の基礎である第二量子化の記述で体系的に見直す上でも,意義のある内容になっていると言えます.

第2章から第4章では固体の電子状態を理解する上で重要な軌道の概念と固体の結合状態,およびその計算方法が説明され,第5章で金属の外場に対する応答を記述する線形応答理論が解説されます.第4章で議論される電子ガス模型は金属の性質を定性的に記述する基本模型ですが,密度汎関数法にもとづく第一原理計算の実施に必要な基本近似手法を理解する上でも重要な理論です.また最先端の第一原理計算プログラムには,線形応答理論に基づく輸送係数などの計算も実装されているため,線形応答理論による外場応答の記述を式の導出までかなり詳しく説明している第5章は,第一原理計算による現代的な研究を理解し実施する上でも有用です.

第6章では第一原理計算の土台である密度汎関数理論,第7章では物性物理学の花形の話題である超伝導理論の基礎的内容が,それぞれ短い分量で簡潔にまとめられています.最終章の第8章は様々な実験手法の解説に当てられていて,実験観測から得られる現象の理解に重きをおく著者の理論家としての研究姿勢が感じられます.紙数の制限から式の導出などが省略されている場面も一部ありますが,本書全般を通して理論の背景にある考え方が意識的に説明されていて,理論や式の意義に戸惑うことなく読み進められるよう配慮がなされた良書であると思います.
(2022年7月15日原稿受付)

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きちんと単位を書きましょう;国際単位系(SI)に基づいて

中田宗隆,藤井賢一

東京化学同人,東京,2022,vi+152p,18 cm×13 cm,1,980円[専門~学部向]ISBN 978-4-8079-2024-2

紹介者:熊倉光孝〈福井大工〉

題名からは学部1年生向けの初歩的な内容が想像されますが,IUPACの推奨ルールや2019年に改定された最新のSI単位系に基づき,基礎的な数値・単位・記号の書き方から,SI単位系の構成,異なる単位間の換算,そして,SI基本単位の定義や定義定数の決定実験まで,単位に関する幅広い内容がコンパクトに纏められています.

始めの2章(計17頁)では,物理量や数学記号の表記について,使うべき書体や書き方などの国際的なルールが多くの例を挙げて平易に解説されており,高校までの教科書で独自ルールに染まった学生に対する高大接続の教材として,有意義な内容となっています.

つづく第3章(7頁)では,SI単位系の構成とその7つの基本単位を紹介し,書き方や接頭語について解説しています.各単位の定義については第8章での説明となっており,馴染みのない物理量については先にそちらを参照するとよいかもしれません.

このあとの第4章~第6章,第9章(計73頁)では,様々なSI組立単位や非SI単位,ならびに,それらの間の換算が紹介されています.大学で物理・化学をある程度学ばないと出会わない単位についても取り上げられており,学部2,3年生程度の物理の知識が前提となっています.なお,電磁気に関する単位については現在の主流であるE-B対応に従って説明されており,E-H対応の場合とは異なるものがあるので注意が必要です.

第7章(9頁)では,よく使われる非SI単位系である原子単位系と電磁気学の3つのcgs単位系について取り上げています.後者については山崎勝義著『電磁気学における単位系(第10版)』(広島大学学術情報リポジトリ,2021)の流儀に沿ってSI単位系を含めた相互関係について解説されています.主に力を与える式の違いが取り上げられ,Maxwell方程式や電流連続の式,P,Mが入った式については,議論はありません.

2019年のSI単位系の改定では,kg,A,K,molの定義が従来から大きく変わりました.これらを含む7つの基本単位の定義や定義定数を決める実験については,第8章,第10章(計30頁)で解説されています.学部3,4年生以上の知識があれば概略を掴むことのできる分かりやすい説明です.各定義の歴史的な変遷,実験の詳細や基礎となる物理については説明が簡略化されているところがありますが,本文中や脚注でこれらを補う文献が紹介されています.

各章には多数の表やポイントを箇条書きにした「まとめ」が配され,章末には演習問題,巻末にはその全ての解答が付されるなど,様々な配慮がなされており,本書は学部学生が物理量や単位の取り扱いに対する理解を深める契機となる一冊です.また,巻末には,164もの単位について名称・記号から解説箇所を探し出せる単位索引や,代表的な147の単位と41の基礎物理定数をまとめた表が掲載されており,物理量の表記や単位に関する最新の手頃な事典としても活用できます.
(2022年9月16日原稿受付)

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1週間で学べる! Julia数値計算プログラミング

永井佑紀

講談社,東京,2022,x+244p,23 cm×19 cm,3,300円[大学院・学部向]ISBN 978-4-06-528282-3

紹介者:南谷英美〈阪大産研〉

物性物理の理論研究では数値計算をどのプログラミング言語で行うかというのは常についてまわる問題である.かつては高速に数値計算するための言語といえば,FortranやCであった.今でもこれらは第一原理計算や分子動力学法の大規模な並列計算コードで現役ではあるが,文法上の制約やその言語単体でできることの少なさもあって,研究を始めたばかりの学生が1から学ぶのに適しているかというと,そうでもない.

比較的シンプルかつ柔軟性のある文法を持っていて,さまざまなパッケージが便利な言語として最近人気なものの一つはPythonである.ただ,多くの人が実感しているようにPythonは何も工夫せずに書くと遅い.Fortranで書くと10秒で終わる処理に数分かかるなんてことがざらにある.

Python並に直感的に書けて,しかもFortran並の速度が出る,そんな夢のような言語として注目されているのがJuliaである.Juliaは新しい言語であるため,日本語でのまとまった資料は数少なく,本書はJulia言語の基礎と応用が1週間分になぞらえた7つの章にまとめられている貴重な一冊である.

著者の永井氏といえば,超伝導体の渦糸から自己学習モンテカルロ法まで幅広く計算物理の分野で活躍されている研究者である.その方が書くJuliaによる数値計算プログラミングの本なので,特に,4日目以降にまとめられている具体例の部分が物理分野の研究者にとって「お,こういう風に使えるのか」と思えるポイントが多く,読むモチベーションが上がる点が本書の特長である.4日目の章ではシュレディンガー方程式を題材に常微分方程式,5日目ではイジング模型でモンテカルロ法,そして6日目ではバンド計算で固有値問題を扱った後に,なんと準粒子干渉や超伝導ギャップ方程式の話題まで盛り込まれている.

興味を引く具体例の前に,Julia言語を使う上での必須知識が1から3日目の部分にまとめられている.1日目は導入,2日目にはJuliaでの一通り必要な文法がまとめられている.3日目は円周率の計算を題材に,実際にプログラムを書いて計算し,それを可視化する方法が紹介されている.

最後の7日目には読者が自分の問題に応用できるように,さまざまなパッケージの紹介やtipsがまとめられている.
この本に沿って,Julia言語の実例を私も試してみた.推奨環境とは少し違うバージョン1.8.1+IJulia+VSCodeのJulia用拡張機能の環境で試してみたが無事動いた.特に教育的だと感じたのが,シミュレーションがうまくいかない(動きはするがおかしな値を返す)場合の例も示してあり,桁落ちや,そもそもの近似の適応範囲などについて考えさせる機会が設けられている点である.

強いて気になる点を挙げるとすれば,2日目部分のボリュームが他と比べて多く少しバランスが悪いと思ったことだろうか.あと,当初,サポートサイトの存在を知らず,1から手作業でコードを入力していたのだが,慣れないJuliaのエラーメッセージ解読に手間取った.読者の方はサポートサイト*を活用されるとより便利かと思う.

まとめると,本書はJuliaについての解説だけでなく,著者のこれまでの物性物理の理論シミュレーションで培われた数値計算のノウハウも詰め込まれている良書である.とくに物理のシミュレーションを始めてみたい学部生や大学院生がコードを実際に書きながら読むと,よい経験になるだろう.
(2022年9月25日原稿受付)

*https://cometscome.github.io/YukiNagai/ja/books/greenjulia/

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基礎からの超伝導;風変わりなペアを求めて

楠瀬博明

講談社,東京,2022,ix+188p,21 cm×15 cm,3,740円[大学院・学部向]ISBN 978-4-06-528016-4

紹介者:水島健〈阪大院基礎工〉

本書は,そのタイトルの通り,超伝導現象を基礎からわかりやすく解説する教科書である.超伝導現象は,その発見から長い間,物性研究の中心的テーマの一つであり続けている.現在でも新しい性質を示す超伝導体が発見されるなど,今なお魅力あふれる研究対象である.古典的名著と呼ばれる教科書は数多く存在するが,その多くは,従来型s波超伝導を中心にした内容であったり,グリーン関数などの量子多体問題のテクニックを駆使した敷居の高いものが多い.

本書は,最近の超伝導研究の主要テーマである「風変わりな超伝導」の面白さを初学者に伝えることを意識した内容となっている.本書の構成は基礎編と応用編の2つからなる.まず,基礎編では,従来型超伝導に関する標準的な内容が解説されている.様々な教科書と重複する題材ではあるが,数式だけに頼らず,その背後にある物理のイメージを掴むように,丁寧な解説がなされている点が本書の特徴である.応用編で扱われる「風変わりな超伝導」とは,異方的超伝導などに代表されるBCS理論の範疇に収まらない超伝導の総称である.最近の超伝導研究の中心テーマであり,魅力あふれる話題が多いが,その内容の難しさからか,初学者に適した入門的な教科書が少ない.応用編では,難しい技術的な内容を極力避けて,基礎編で学んだ事項をベースとして,できるだけ平易な文章と図で「風変わりな超伝導」のエッセンスを伝える工夫がなされている.

基礎編は3つの章からなる.第1章では,従来型超伝導の基本的諸性質が紹介された後,ロンドン理論や熱力学に基づいて簡単な理論的考察が加えられている.第2章では,超伝導の電磁応答や渦糸磁束がギンツブルグ・ランダウ理論を用いて説明される.ヒッグスモードや,アンダーソン-ヒッグス機構とマイスナー効果の関係などといった,他の教科書ではあまり触れられていない内容も含まれている.第3章では,超伝導の諸性質や熱力学的性質がBCS理論に基づいて丁寧に解説される.この章の最後では,超伝導特有の干渉効果を産み出すコヒーレンス因子に注目しながら,超音波吸収,核磁気共鳴,電流応答などが議論されている.この章は第2量子化から出発するため,学部生でも十分に数式を追って理解できる内容となっている.なお,応用編は第2章と3章の知識を前提としているため,基礎編で丁寧に数式をフォローしながら学んでおいた方が,応用編の理解をより深めることができると思われる.

第4章と第5章の応用編では,異方的超伝導の基礎的事項と「風変わりな超伝導」が紹介されている.第4章の前半では,異方的超伝導のペア相互作用の起源について議論されている.特に,反強磁性揺らぎがスピン1重項kx2-ky2ペアを安定化させるメカニズムについて,数式と図を用いて丁寧に解説されている.さらに,超伝導ギャップ関数の軌道やスピンに関する異方性が観測量にどのように反映されるのか,比熱やスピン磁化率の温度依存性に注目しながら議論されている.異方的超伝導では,ギャップ関数の異方性を特定する強力な実験手法として,比熱や熱伝導率の磁場角度依存性を測定する方法がある.これは,磁場中超伝導に存在する磁束渦糸周りの遮蔽電流と準粒子励起の異方性の複合的要因に由来する.これを微視的に理解するためには非常に込み入った理論計算が必要となるが,本書では簡単な数式と図を用いて明快に解説されている.この章の後半では,磁場侵入長の異方性や多重相転移,さらに,多バンド超伝導のギャップの温度依存性などが議論されている.第5章では,「風変わりな超伝導」の具体例として,銅酸化物高温超伝導体,鉄系超伝導体,空間反転対称性のない超伝導,スピン3重項超伝導や強磁性超伝導などが紹介されている.この章では,個々の話題を掘り下げるのではなく,「風変わりな超伝導」を概観しながら,超伝導研究の最前線に触れることに留めている.脚注には総説論文や解説記事などが紹介されているので,本書をとっかかりとして,より掘り下げて調べていくことも可能である.

なお,本書では接合系の物理やトポロジカル超伝導などについては触れられていない.ただし,これらの話題を取り扱った教科書は既に存在するため,それらと相補的な関係にある.本書について一点気になる点を挙げるならば,後半は式変形などを極力避けた内容となっているため,異方的超伝導のエッセンスは汲み取れるが,出てくる数式などを完全にフォローするのが難しい点にある.例えば,結晶点群の規約表現を用いた議論や乱雑位相近似による有効相互作用の評価については,ある程度の予備知識が必要である.付録でグリーン関数などが導入されているが,頁数の限りのため,本書だけで理解することは難しいと思われる.必要に応じて,脚注で引用されている文献などで学ぶ必要があるだろう.

結論として,本書では,超伝導の基礎的事項から「風変わりな超伝導」に至るまでの豊かな超伝導物理が,180ページ程度のコンパクトな分量でまとめられている.難解な異方的超伝導の物理のイメージを掴みやすいように工夫されており,この分野の入門的教科書として最適である.より高度な専門書へ進むための道案内として,「風変わりな超伝導」に興味のある学生や研究者に勧めたい一冊である.

(2022年10月11日原稿受付)

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非平衡統計力学;ゆらぎの熱力学から情報熱力学まで

沙川貴大

共立出版,東京,2022,vi+183p,21 cm×15 cm,2,420円(基本法則から読み解く物理学最前線28)[専門~学部向]ISBN 978-4-320-03548-5

紹介者:齊藤圭司〈京大理〉

非平衡統計力学にとって2000年前後という時期は,まさに大きな転換点を迎えた重要な時代であった.ジャルジンスキー等式やゆらぎの定理が発見され,平衡から遠い領域においても普遍的に成立する非平衡等式や不等式が相次いで発見された.これらにより,それまでの非平衡物理学研究の風景は一変したと言ってよい.本書は,これら大きな変化を遂げた非平衡統計力学についてまとめた,日本語による入門書である.

言うまでもなく我が国は,非平衡統計力学の金字塔である線形応答理論構築に関して多大な貢献をした.いわゆる物性基礎論におけるこの伝統はその後も受け継がれ,ゆらぎの定理周辺の非平衡物理学においても,日本は大きな貢献をし,また現在もし続けている.振り返れば,ゆらぎの定理は,故川崎恭治氏らによって1970年代に発見された非線形応答に関する理論を,分かりやすく包含する現代的な式とも解釈できるのだ.そして現在,現代的な視野で萌芽した重要な分野は,「情報熱力学」である.マックスウェルの著書Theory of Heatで指摘されたいわゆる「マックスウェルの悪魔」の問題は,部分的に誤解と正解を交えた混沌の状態から,ゆらぎの熱力学の枠組みのもとにエレガントに正解のみが抽出され,また,各ピースに分解された諸問題たちは融合され解決に至る.そしてこれら一連の過程は,新たな分野をも産み落とすことになる.本書は,非平衡統計力学の進歩を理解する上での入門書であるが,著者が寄与した情報熱力学における歴史や考え方も見せてくれる.

第1章では,歴史的な概観や非平衡熱力学の全体像が述べられ,第2章では熱力学第2法則に関する基礎的な内容がまとめられている.また,ゆらぎの熱力学(Stochastic Thermodynamics)と呼ばれる一連の枠組みが要領よくまとめられている.第3章では,ゆらぎの定理周辺の関係式がまとめられているほか,最近の熱力学的不確定性関係や,熱機関でのパワーと効率のトレードオフ関係式,熱力学的速度限界なども小気味よくまとめられている.そして,本書での圧巻は,情報熱力学に特化した第4章だ.歴史的な変遷をたどりマックスウェルの悪魔の問題が現代的な視野で解決され,さらに情報をリソースとする情報熱機関など応用も解説されている.独り立ちして間もない野心に満ちた分野を俯瞰でき,深遠さや爽快さを感じさせる章である.

本書は,学部で習う熱・統計力学の知識をもとに,詳しく式を追いながら読めるように構成されている.また,例なども上手に盛り込まれており,初学者でも物理的なイメージを持ちながら読むことができるだろう.生体分子モーターなどゆらぎの熱力学が応用される重要な話題も説明され,読者を飽きさせない工夫もなされている.

本書は,入門書としてのみならず,生物物理など周辺分野の研究者にとっても非平衡熱力学の手引として役立つに違いない.

(2022年10月19日原稿受付)

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Particle Confinement in Penning Traps; An Introduction

M. Vogel

Springer, Cham, 2018, xiv+452p, 24 cm×16 cm, €113.29(Springer Series on Atomic, Optical, and Plasma Physics 100)ISBN 978-3-030-09446-1

紹介者:齋藤晴彦〈東大新領域〉

電場や磁場の組み合わせによる荷電粒子の閉じ込め技法は多くの研究分野で必要不可欠であり,その進展は様々な研究の足掛かりとなってきた.ペニングトラップとそこから派生した各種のトラップは静電磁場を用いる粒子捕獲装置であり,原子物理や非中性プラズマ,質量分析,反物質閉じ込めや磁気モーメントの精密測定など幅広い分野で活用されている.本書はペニングトラップによる粒子閉じ込めと関連する実験技術の解説書である.

導入部はDehmeltらによる初期の研究から最近までの進展の概要,粒子閉じ込めの概念やマグネトロン運動など用語の定義に始まり,続く章ではペニングトラップおよび様々な派生型トラップの電磁場と電極の構成が説明される.Earnshawの定理から荷電粒子捕獲の原理が述べられ,閉じ込めを実現するための電磁場配位がPaulトラップなどと比較しながら説明される.ペニングトラップの派生形として,非中性プラズマで標準的なMalmberg trapや,反水素合成に使用されるnested trapやPenning-Ioffe trapも紹介されている.電極の材質や絶縁材料の選定といった実際的な事項も記載されており,これからトラップを作成して実験をはじめようという場合に参考になるだろう.五章からはトラップ中の粒子運動に焦点が当てられ,理想的なペニングトラップの電磁場中で単一粒子の軌道と周期運動,続いて不正電磁場や磁場の軸ずれが粒子運動に与える影響が,著者自身の経験も踏まえて述べられている.さらに同じく理想的状況からの逸脱という位置づけで,鏡像電荷が粒子軌道に与える影響や,粒子の放射エネルギー損失,荷電交換反応などが紹介されている.八章では多数の粒子が示す集団現象を扱い,空間電荷が規定するBrillouin密度限界や固有周波数への影響が説明される.プラズマパラメータ(クーロンポテンシャルと熱エネルギーの比)の定義や,関連してイオン結晶など強結合プラズマ,また荷電粒子群が非中性プラズマとして示す静電揺動モードの種類や励起方法も解説されている.続いて実験手法に戻り九章はトラップ中に粒子をloadする方法,十章から十三章まではトラップ中の粒子運動の励起や粒子の制御,計測法,具体的には回転電場を用いた径方向圧縮や多様な粒子冷却方法が説明される.終盤は質量分析とも関連してRF分光やマイクロ波分光の話題が5章にわたって述べられ,最後に磁場勾配を用いた磁気モーメントの精密計測と具体的事例が紹介されている.このように多くの事項を扱い各章が比較的短く読みやすく構成され,必要に応じて取捨選択した読み方も容易である.項目によって,より専門的な文献を参照するといった使い方が良いと思われる.

学部課程で基礎知識を習得して研究室に入るとすぐ,耳慣れない専門用語が飛び交う研究の現場で活動することになるのはよくあるケースだろう.はじめて目にする実験装置を前に,先輩の助言や文献を参照して知識の収集を試みるも,登場する様々な技法の原理や用語の意味が分からないという事態に陥ることは少なくない.本書は基本的な教科書と専門的文献の中間的な位置づけであり,大学院生や高学年の学部生が新たに研究をはじめる際などに,必要事項を概観的に把握するために好適な入門書である.

(2022年11月30日原稿受付)

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生物物理学

鳥谷部祥一 著,大塚孝治,佐野雅己,宮下精二 編

日本評論社,東京,2022,x+282p,21 cm×15 cm,4,180円(物理学アドバンストシリーズ)[大学院・学部向]ISBN 978-4-535-78972-2

紹介者:柳澤実穂〈東大総合文化〉

生命現象を対象とする物理学は,ますます広がりをみせている.生物物理学に関する教科書は数多く出版されてきたが,その多くは物質や現象ごとに構成されており,生物学の知識をあまりもたない物理学徒が生物物理学の全容を把握することは容易ではない.これに対して本書は,生物物理学が扱ってきた主な生命現象を題材に,重要となる「物理学的捉え方や理論」をコンパクトにまとめている.それゆえ本書は,生物物理学とはどのような物理学的枠組みをどのように生命現象に当てはめる学問であるのかを網羅的に理解したい者にとって最良な教科書となるだろう.

本書の第I部「基礎」では,物理学ではお馴染みのエネルギー論や速度論に始まり,力学系,分子構造や階層構造,そして近年急成長を遂げている情報理論まで,生命現象を理解・整理するために必要となる物理学的捉え方を身につけることができる.幅広い内容を取り扱っているため,力学や熱力学,統計力学などの基礎を身につけた学部3年生以上に特におすすめしたい.第I部の基礎をもとに,第II部と第III部「分子,細胞のスケール」では代表的な生命現象を説明している.

特に味わい深い章として,第I部の第5, 6章のマルコフジャンプ過程から熱ゆらぎと拡散現象,それをもとに説明される第II部の第9, 10章の分子機械とその速度論が挙げられるだろう.著者である鳥谷部氏は,第9, 10章に紹介されている回転分子モーターF1-ATPaseのエネルギー論を開拓した気鋭の実験研究者である.それゆえ実験と理論がみごとに対応づいて生体分子のエネルギー効率の理解に迫るくだりは,非常に読み応えがある.また第8章では目覚ましい進展をみせる情報理論を,DNAの遺伝子情報や分子モーターを例に分かりやすく解説している.第14章では,他の生物物理学の教科書にはあまり紹介されてこなかった微生物の遊泳や,アクティブマターとも総称される集団の運動を取り扱っており,単一細胞を超える大きなスケールで現れる自律性に心惹かれるだろう.

各章末に設けられたコラムでは実験手法が紹介され,また文献にも多くの実験系論文が含まれている.単に生命現象に関与する物理学を学ぶだけでなく,その背景にある実験にも興味をもってほしいという著者の思いが見て取れる.さらに本書には,数値実験用のソースコードも付随しており,実際に手を動かして理解するのに役立つだろう.

このように本書は,大学教養レベルの数理を身につけた学生が生物物理学を知りたくなったときや,生物物理学とは異なる専門性をもつ物理系の研究者が生物物理学の全体像を把握したくなったとき,あるいは生命系の研究者がその背景にある物理的機構を学びたくなったとき,にぜひ手にしていただきたい一冊である.

(2022年12月21日原稿受付)

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物理数学II;フーリエ解析とラプラス解析・偏微分方程式・特殊関数

西森秀稔 著

丸善出版,東京,2015,vii+246p,21 cm×15 cm,3,080円[学部・一般向]ISBN 978-4-621-08974-3

紹介者:古川俊輔〈慶應大理工〉

物理系学科の2年生から3年生にかけて学ぶべき数学として,複素解析,フーリエ解析,偏微分方程式,特殊関数などが挙げられ,「物理数学」としてカリキュラムに組まれることが多いであろう.複素解析は体系的な学び方がしやすく,詳しさや厳密さの異なる非常に多くの書がある.一方,それより後の内容は主に量子力学や電磁気学などに現れる偏微分方程式を解くための道具を提供するものであるが,題材の取り上げ方に自由度が高い.本によってしばしば重点の置き方が異なる.私自身,2年生後半の物理数学講義を担当する中で,題材の選び方に悩んだ.また,ヒルベルト空間などの厳密な扱いは,物理学者が通常使う数学の範疇を超えるものであり,どの程度まで厳密さを保つかも難しい点である.フーリエ解析,ラプラス解析,偏微分方程式,特殊関数を物理系での必要度に合わせてバランス良く取り上げ,具体例によるわかりやすさと数学的厳密さをうまく両立しながら解説するのが本書である.公式・重要事項には網掛けがされ,関数のプロットが数多く配置されていることから,視覚的にも読みやすい本である.

本の内容を見ていきたい.フーリエ級数(1章),フーリエ変換(2章)については,様々な具体例が提供されると同時に,諸定理の証明がしっかりなされ,数学的正しさに安心感を覚えながら読み進められる.込み入った証明は付録に配置されているため,本文は式を追い,演習問題を解きながらスムーズに読み進められる.例えば,フーリエ級数の点別収束の証明は本文で,一様収束の証明は付録でといった具合である.偏微分方程式の境界値問題(3章)に移る段階で,(無限和と微積分の交換などの)厳密さの検証は逐次行わずに進めることが宣言されるため,どのような姿勢で読むべきかがわかりやすい.具体的な方程式を解く中でフーリエ級数,フーリエ変換の有用性を早速実感でき,さらにグリーン関数も解説される.特殊関数(4章)については,ガンマ関数,ベータ関数に加え,量子力学に現れる種々の関数(ルジャンドル,ベッセル,エルミート,ラゲール等)が扱われる.各公式についてどのような導出が読みやすいかが吟味されており,量子力学などで必要になる多数の事項をしっかり導出を追いながら学ぶことができる.章の最後では,いくつかの特殊関数の共通の性質が,シュツルム-リウビル型の微分方程式の解の性質としてまとめられることが解説される.さらに,そのような微分方程式の固有関数の集合が完全系をなすという数学的事実への言及があるのが興味深い.証明はクーラン-ヒルベルトの書に譲られているが,このことから量子力学に現れる特殊関数(ルジャンドル,エルミート等)によって任意の物理的な状態が展開できること,それゆえそれを解として持つシュレーディンガー方程式が物質世界の記述として適切なものであることが認識させられる.ラプラス変換(5章)は短めの内容であるが,諸性質とともに微分方程式の初期値問題への応用が解説される.

私の担当する物理数学講義においては,本書に加え,以下の書を参考書として薦めている.福山秀敏・小形正男著『物理数学I』(朝倉出版)は,複素関数論と特殊関数が主な内容であり,それらの間の接続が良い.微分方程式の確定特異点周りの解析の一般論を示した後,具体例に移る構成も見通しが良い.また,量子力学への応用が詳しく,ランダウ準位やバンド構造が特殊関数の視点から紹介されているのは興味深い.柴田尚和・是常隆著『物理数学』(共立出版)は本書と内容が似ているが,題材を絞り,計算を詳述しているため,より入門的な本として位置づけられるであろう.本書は学びやすさと実用性がありながら数学的深みも味わえる本であり,出版からすでに8年経つが,末永く親しまれる本になるだろう.

(2023年1月20日原稿受付)

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重力波・摂動論

中野寛之,佐合紀親 著

朝倉書店,東京,2022,vi+259p,21×15 cm,4,290円(シリーズ〈理論物理の探究〉1)[大学院向]ISBN 978-4-254-13531-2

紹介者:馬塲一晴〈福島大理工〉

本書は,朝倉書店「理論物理の探求」シリーズ第1巻として刊行された,重力波およびブラックホール摂動論を詳細に論じている教科書です.重力波とは,一般相対性理論から予言される非常に微弱な時空の揺らぎです.2015年,地上重力波望遠鏡LIGOによって初めて重力波が直接観測され,2017年ノーベル物理学賞が授与されました.その後,重力波を通じて数多くのブラックホールや中性子星の合体現象が観測され,物理学・天文学における重要な観測手段となりつつあります.これにより,従来の電磁波やニュートリノによる天体現象のみならず,重力波観測をも含めたマルチメッセンジャー天文学の時代が到来しました.今後,日本の大型低温重力波望遠鏡KAGRAをはじめ,地上・宇宙空間での重力波望遠鏡による重力波の多波長観測などにより,一般相対性理論の検証や宇宙の多様な現象の解明が進むことが強く期待されます.

一方,一般相対性理論は非線形の理論であり,厳密解を得ることが困難であるため,摂動展開を用いた摂動論が重要になります.これまで,ブラックホール背景時空からの計量や曲率の小さなずれを記述するブラックホール摂動論に関しては,日本語で系統的に書かれた教科書はありませんでした.本書では,重力波の理論的研究における摂動的な取り扱いが解説されており,重力波観測が大きく進展する時代にあって,時宜にかなった重要な書物です.

第1章では,重力波物理学・天文学の幕開けの背景が解説され,一般相対性理論の基礎知識が簡潔にまとめられています.続く第2章では,平坦な時空における重力波の計算が説明されています.第3章では,最も基本的でありながら拡張性の高い静的球対称時空であるSchwarzschildブラックホール時空において,計量の摂動を用いて重力場摂動の定式化が展開されます.特に,汎用性の高いRegge-Wheeler-Zerilli形式が紹介されています.さらに第4章では,宇宙において一般に存在すると考えられる自転するブラックホールを対象として,曲率の摂動を用いることにより,定常軸対称解であるKerrブラックホール時空の重力場摂動が定式化されます.最終的に解くべきマスター方程式が導出され,その解を得るための数値的並びに解析的手法が提示されています. 本書の特筆すべき優れた点は,重要な数式の紹介だけに留まらず,それらの式の導出過程を丁寧に記載されていることです.また,連星系からの重力波波形やブラックホール準固有振動数などの具体的な計算例についても,計算過程が示されています.充実した付録も付けられており,読者にとって親切な記述になっています.

最後に,評者は,著者等と大学院生時代から親交があり,本書で示されている研究成果の導出過程を間近で見て参りました.本書は,著者等でなければ決して書くことができなかった書物であり,これまでの著者等の研究の正に「結晶」であると思います.上述した丁寧で親切な筆致は,著者等のお人柄の現れであると感じます.以上の観点から,これから重力波やブラックホールの物理について学ばれる方,研究される全ての皆様にとって有用な教科書であると考えます.

(2023年1月23日原稿受付)

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量子多体系の対称性とトポロジー;統一的な理解を目指して

渡辺悠樹 著

サイエンス社,東京,2022,viii+201p,26×18 cm,2,530円(SGCライブラリ-179)[専門・大学院向]ISBN 978-4-7819-1552-4

紹介者:多田靖啓〈広島大先進理工〉

近年の物性物理学では,対称性,トポロジー,エンタングルメントなどの概念が複雑に絡み合っており,とくに初学者にとっては全体像をつかむことが難しくなっている.このような流れは,伝統的なGinzburg-Landau流の枠組みを超えた比較的新しいパラダイムであり,そのため,残念ながらまとまった内容の教科書はほとんどない.そのような中にあって,本書では物性物理学の多岐にわたる系を対称性やトポロジーの観点から統一的に理解することを目標に,著者自身が勉強した際に「こうやってまとめてあったらよかったのに」と感じていたことが丁寧に解説されている(「あとがき」より).実際,本書からは「量子系を統一的に理解したい」という著者の意気込みがビシビシと伝わってくる.大変興味深い野心的な教科書であり,その登場に感謝したいと思う.

本書はまず,1章でのヒルベルト空間と演算子の定義,そこにおける対称性についての導入から議論が始まる.ハミルトニアンの局所性といった,従来の教科書ではあまり説明されていない事項についてのしっかりとした記述もあり,以降の章のための足場がしっかりと構築されている.1章の一般論を踏まえて,続く2章では,具体的な理論模型をいくつか紹介している.本書で取り上げられている模型の数は多くはないが,その分,「簡単で教育的な具体例」が厳選されており,それらを通してトポロジーや対称性の役割を見ていこう,という姿勢が明確にされている.3章では,それらの模型を含むより一般的な系を包括的に理解する枠組みとして,絶対零度量子相の分類を議論している.ここでの議論は主に,ハミルトニアンの断熱変形に基づくものであり,基底状態と励起状態の間のエネルギーギャップの重要性が強調されている.さらにその分類を精密化するための要素として,ハミルトニアンのもつ対称性の役割が論じられている.ここまでで,対称性・トポロジー・エンタングルメントに基づく量子相のパラダイムが理解できるように工夫されている.その後の4~6章では,エネルギースペクトルに関わる重要な定理であるLieb-Schultz-Mattisの定理とその周辺の話題が紹介されている.後半戦の7~11章はそれまで以上に著者の本領発揮である.これらの章は主に著者自身(とその共同研究者)の研究に基づいたものであり,他の教科書ではほぼお目にすることができない,空間群を用いたトポロジカルな分類理論や多極子についての解説である.最後に本書には,付録A~Cがあるが,どれも読み応えのある充実した内容で,ありがたい.

以上のように本書では,近年の物性物理学の目覚ましい発展が著者の目を通して整理されており,この分野の大枠を統一的に理解するための基礎がガッチリと説明されている.また,本書は豊富な参考文献を紹介してくれており,さらに勉強を進めたい読者にとってのガイドとしても役立つだろう.是非,オススメしたい一冊である.

(2023年2月23日原稿受付)

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強光子場分子科学

山内薫 編著

朝倉書店,東京,2022,xix+457p,21 cm×15 cm,9,350円[専門・大学院向]ISBN 978-4-254-14108-5

紹介者:須田亮〈東京理科大創域理工〉

本書は,強光子場における原子や分子の振る舞いと,その結果観測される現象について,基礎から最前線の研究まで紹介する良書である.強光子場に関する基礎が丁寧に説明されており,その理論的背景,実験手法,結果などがわかりやすくまとめられている.原子・分子物理を中心に解説されているが,この分野はレーザー光源の開発とともに進展してきたことから,レーザー技術の発展も紹介されており,入門書として大いに役立つ一冊である.

内容を見ていこう.第1章と第2章では,原子・分子と光の相互作用,とりわけ,強光子場中の原子のイオン化について述べられている.光の強度が大きくなると,多光子イオン化から超閾イオン化に移行し,通常イオン化に必要となる光子数以上の光子を吸収した後にイオン化するようになる.さらに高強度になると,束縛電子が感じるポテンシャルが歪められ,トンネル過程によって電子が原子や分子の外に出ていくトンネルイオン化の描像で記述される.これらについて,摂動論的に取り扱うことのできる領域から,トンネルイオン化を代表とする非摂動論的領域まで,系統的に説明がなされており,無理なく読み進めることができる.

第3章から第5章では,強光子場中の分子の振る舞いについて述べられている.分子の場合,回転,振動,解離などの存在により,強光子場における応答はより複雑となる.配列,配向,構造変形,水素原子の超高速マイグレーション,多重イオン化に伴うクーロン爆発など,さまざまな現象が起こる.分子がレーザーの偏光方向に並ぶ配向,配列は,分子アンサンブルが複屈折性を持ち,分子軸に平行な成分と垂直な成分に大きな差があることを利用したものである.また,レーザーパルスの電場波形を整形することにより,分子励起過程を制御することができる.レーザー場をさまざまにデザインすることによって分子系のダイナミクスを制御できることが紹介されている.

トンネルイオン化により原子から離れていく電子は,光の電場の向きが変わると原子領域に戻ってきて元の原子のイオン核と再衝突する.この電子の再衝突に伴って,二重イオン化や高次高調波発生が起こる.第6章と第7章では,電子の再衝突や電子散乱が紹介されている.高次高調波は時間・空間コヒーレンスの優れた極端紫外および軟X線波長領域の光であり,第8章では,高次高調波発生に加えて自由電子レーザーの発生と集光技術が紹介されている.これらの光源はアト秒パルスの生成と密接にかかわっており,アト秒レーザー科学の発展に欠かせないものとなっている.

最後になるが,本書は参考文献も充実しており,この分野を学ぶ大学院生や研究者にぜひ勧めたい一冊である.

(2023年2月21日原稿受付)

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The Physics of Laser Plasmas and Applications - Volume 1; Physics of Laser Matter Interaction

H. Takabe

Springer Nature, Switzerland, 2020, xix+384p, 24 cm×16 cm, 93.37€(Springer Series in Plasma Science and Technology)[専門・大学院向]ISBN 978-3-030-49612-8

紹介者:田中周太〈青山学院大理工〉

レーザーは大きな輝度と高い指向性を持つ光で,1960年に発明されて以来,基礎物理研究のみならず光を用いた技術に広く応用されて,既に我々の生活にも深く浸透している.その中でも本書は光とプラズマの相互作用について取り扱っている.光の制御技術と共に現在でもレーザーの高強度化が進められており,一口に光とプラズマの相互作用と言っても,レーザー光の電磁場の強さやターゲットとなる物質の材質や形状などによって様々な物理過程がある.本書では,1013~1022 W/cm2という高強度レーザーとガスもしくは固体密度のプラズマとの相互作用について,黎明期から最近の話題までが記されている.

本書は全三巻のうちの第一巻であるが,レーザープラズマ物理を理解するには相対論や量子論なども含めて広範な物理の知識を要することが本書のみでもわかる.洋書である点と併せて,大学院生以上の専門家向けである.第一巻のみでも取り扱っているトピックが豊富なので,これからレーザープラズマ物理を勉強する場合に助けとなるに違いない.個々の現象については著者独自の直感的な説明や考察が含まれているため,理解を大いに助けるであろう.しかし,数式の導出については参考文献に譲っており,本書のみでの理解が難しい.様々な現象とその参考文献が載っているという点で辞書的に使うと良い.

本書の構成として章を重ねる毎に,高強度レーザーの歴史を追ってレーザー強度が大きな現象を取り扱っている.第2,第3章では,光と物質の相互作用によってプラズマが発生する過程,つまり光電離について述べている.これは物質が光のエネルギーを吸収する過程であり,個々のプラズマ粒子間のクーロン衝突を介在した衝突吸収と,クーロン衝突を介在しないプラズマ集団現象としての無衝突吸収があり,各章でそれぞれが述べられている.ここでは光の吸収率に注目した議論のみで第二,第三巻でレーザーのエネルギーを吸収したプラズマの挙動について述べられるようであるが,相互の関連が気になるところである.

レーザーの吸収過程や第4章で触れられている非線形のレーザー・プラズマ相互作用について,相対論的レーザー強度(レーザー電場により電子の速度が光速に近づく強度)の場合が,第6,第7章で述べられている.レーザー強度やターゲット毎に章毎に分けて整理している点に配慮を感じるが,各章で議論される各々の内容についてもう少し関連性を述べられているとなお良いと思った.この分野の文献の多分に漏れず,多数紹介されている粒子シミュレーションの結果を分別し整理するには労力を要する.

第8,第9章では相対論的強度のレーザーによる電子加速について述べられている.レーザー・プラズマ相互作用により一部の電子が非熱的に加速され,地球に到来する宇宙線に見られるような冪型のエネルギー分布を示す現象で,宇宙物理学の研究と関連させて議論されている.ただし宇宙線は陽子や原子核が主成分である.その他,宇宙物理学を専門とする評者から見て,宇宙物理学と関連する部分についてはメインストリームでない記述がいくらか散見されることを述べておく.ただ手前味噌であるが,著者が提唱してきた高強度レーザーを用いた実験室宇宙物理学には評者も少なからず関わっており,この点は発展途上の学際分野における齟齬で分野間の連携の強化によって改善されていくと期待している.総じて,数少ない当該分野の専門書としても手に取る価値のある著書である.

(2023年2月21日原稿受付)

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高圧下水素化物の室温超伝導

有田亮太郎

共立出版,東京,2022,vii+114p,21 cm×15 cm,2,200円(基本法則から読み解く物理学最前線26)[大学院・学部向]ISBN 978-4-320-03546-1

紹介者:栁瀬陽一〈京都大院理〉

「室温超伝導」に対して,夢のようなイメージをお持ちの方は,物理学者のみならず研究者でない方にも多くおられると思う.はたしてそれは,夢だろうか,幻だろうか,それとも現実の事象であろうか.

本書は第一原理計算に基づく超伝導研究の第一人者である有田亮太郎氏が室温超伝導を目指す試みとその理論的記述について執筆した教科書である.その内容は,甘酸っぱい夢を刺激し読者の心を惹きつける(惑わせる?)ような類のものではなく,室温超伝導に限らず超伝導体の定量的な記述を志向した理論の枠組みを丁寧に述べたものである.本の厚さと価格から内容を推測した人は,想像よりもずっと本格的な教科書であることに驚かされるかもしれない.

現在の超伝導研究は,あと一歩で室温超伝導に手が届きそうな段階にある.かつて銅酸化物高温超伝導体が世界を驚かせた頃に「約2倍で室温とはいえ,身長が3 mの人はいない」という言説があったらしく,銅酸化物については今もそれが事実である.しかし現在は,身長が2 mの人を探すのに似た状況になっている(そして,私の知人にも身長が2 m超の人はいる).ただし,その有力な候補は常圧には存在せず,いまのところ高圧下という極限環境の水素化物に限られている.本書は高圧下水素化物を念頭に置き,電子格子相互作用に由来する等方的超伝導体に焦点を絞り,その転移温度を定量的に予測するための理論的手法が解説されている.

1章では高圧下水素化物における高温超伝導の発見が概説され,2章では結晶構造の第一原理的予測法について述べられている.3章では超伝導の転移温度を定量的に評価する理論的枠組みが述べられており,この章が本書のハイライトと言えるだろう.格子振動,電子状態,電子格子相互作用の第一原理計算,そしてそれらに基づいて超伝導転移温度を計算するためのエリアシュベルグ理論と超伝導密度汎関数理論が解説されている.想像以上に本格的,と上で述べたのは主にこの章に対する感想である.最後の4章では高圧下水素化物についてより詳しく述べられており,転移温度の理論的評価が実験値と定量的にも一致していることがわかる.そこでは,検証が十分ではない物質に関する議論は避けられ,広く信用されている事実のみが書かれている.

近年の物性物理学では,理論的予測に基づいて新発見が行われるケースが明らかに増えた.本書で扱われる高圧下水素化物の高温超伝導はその成功例の一つであろう.若手にファンが多い有田氏の手による教科書でもあることから,本書は多くの方の興味を惹きつけているだろう.その期待に違わぬ良書だと思う.超伝導体の第一原理的研究の入門書としてぜひ多くの方に手に取っていただきたい.一方,異方的超伝導やエキゾチック超伝導など多くのトピックスが本書の対象外である.本書から入門する方には超伝導体の様々なトピックスにもどこかで触れてほしいと願う.

偶然にも,この書評を書きながら室温超伝導発見のニュースを聞いた.ただちに検証が始まるだろう.今回はどこにたどり着くだろうか.

(2023年3月15日原稿受付)

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2次元超伝導;表面界面と原子層を舞台として

内橋隆

共立出版,東京,2022,viii+133p,21 cm×15 cm,2,420円(基本法則から読み解く物理学最前線30)[専門~学部向]ISBN 978-4-320-03550-8

紹介者:板橋勇輝〈東大院工〉

超伝導における特徴的な長さであるコヒーレンス長よりも厚みが小さい超伝導体は2次元超伝導体と呼ばれ,その次元性に起因する多彩な物性を示す.特に,2016年にノーベル物理学賞を受賞したベレジンスキー-コスタリッツ-サウレス(BKT)転移も2次元超伝導体で見られる現象である.本書は超伝導研究のフロンティアの1つである2次元超伝導の物理について,超伝導一般の基礎的事項から2次元超伝導特有の物理現象,そして最近の研究に至るまでを網羅的に解説した教科書である.

以下で本書の構成について見ていく.本書は大きく分けて前半の超伝導の理論的背景と,後半の2次元超伝導の実験的側面からの解説から成り立っている.第1章は2次元超伝導研究の俯瞰的紹介から始まっている.第2章では,バーディーン-クーパー-シュリーファー(BCS)理論やギンツブルグ-ランダウ(GL)理論など超伝導の基礎について解説しており,2次元超伝導のみならず,超伝導一般の振る舞いを理解するうえで重要なポイントがコンパクトにまとめられている.

第3章では,超伝導揺らぎの次元性,そして2次元超伝導に特有の現象であるBKT転移や超伝導-絶縁体転移について式を交えつつ丁寧に解説しており,如何にして揺らぎの大きな2次元超伝導体が超伝導転移を示すのか,という2次元超伝導における重要な謎が明かされる.第4章では,そのような2次元超伝導が如何なる系で実現しうるかの例が実験結果とともに具体的に示されている.薄膜・界面超伝導や銅酸化物・鉄系超伝導,電気二重層トランジスタによる電界誘起超伝導,カルシウムドープ2層グラフェンに加え,魔法角捻れ2層グラフェンといった近年注目を浴びている話題にも触れられている.第5章では,超伝導薄膜に存在する原子ステップ欠陥を利用したジョセフソン接合や高結晶性2次元超伝導体の実現により明らかになった異常金属相,そして2次元超伝導体に付随する空間反転対称性の破れを反映したスピン-運動量ロッキングに起因する臨界磁場の増大など,最近の2次元超伝導研究の進展について実験結果を中心にまとめられている.第6章は,本書のまとめ,そして今後の展望となっている.

このように本書は他に類を見ない2次元超伝導に特化した構成でありながらも,基礎から最新のトピックまでバランス良く盛り込まれており,初学者もこの1冊で2次元超伝導の最近の進展まで容易にキャッチアップできるような内容となっている.そのうえ,2次元超伝導研究を行ううえで押さえておくべき重要な点がコンパクトにまとめられているため,研究を進めていくなかで咄嗟に参照できるハンドブックとして手元に置いておきたい1冊ともなっている.表紙が電気抵抗のグラフと些か面食らうかもしれないが,2次元超伝導に携わる,あるいは興味のある研究者はもちろんのこと,大学院生や学部生にも2次元超伝導の世界への導入として勧めたい良書である.

(2023年3月16日原稿受付)

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