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PTEP招待論文・特集論文

PTEP 2017年12月号の特集論文

極高エネルギー宇宙線の起源

  10の18乗電子ボルトを超える極高エネルギー宇宙線(Ultra High Energy Cosmic Rays: UHE CRs)の研究は、ほぼ半世紀にわたる長い歴史を持っています。宇宙の非熱的高エネルギー現象の解明をめざし、また加速器実験でのエネルギーを超える素粒子相互作用や陽子・陽子散乱断面積などの情報を得る目的で観測されてきました。1960年代に宇宙の晴れ上がりを示すマイクロ波放射の存在が観測されて直ぐ、10の20乗電子ボルトを超える宇宙線と背景放射の相互作用によって宇宙空間でパイオンが生成する可能性が指摘されるなど、宇宙現象と素粒子相互作用との深い関わりが論じられてきました。このように、極高エネルギー宇宙線の研究は、素粒子物理と宇宙物理の両面にまたがり、エネルギーと空間の広大な領域をカバーする、興味深く重要な研究主題であるということができます。
  極高エネルギー宇宙線の観測には、いくつかの基本的な課題があります。例えば、なぜこのような高エネルギーの非熱的粒子が宇宙で必要とされるのか、陽子や原子核をこのような高エネルギーまで加速する物理機構は何か、加速の場所はどこか、銀河系外の空間を伝搬することで特性がどのように変わるか、などの疑問に答えることです。現在、極高エネルギー宇宙線の観測は主に2つの実験グループ、オージェ(ピエール・オージェ観測所)とTA(テレスコープ・アレイ実験)によってなされています。特集企画「極高エネルギー宇宙線の起源」は、この2つのグループの協力のもとで執筆され、極高エネルギー宇宙線研究の最新の情報を集約・概観し、今後の展望を切り拓くことを目的としています。
  極高エネルギー宇宙線の観測は、3つの特徴的な研究主題「エネルギー・スペクトル(エネルギーの関数としての宇宙線頻度)」「成分(宇宙線の粒子種)」「異方性(宇宙線の到来方向)」にわかれます。これらについて、2つの実験グループ、南半球のオージェと北半球のTAによる最近の観測は、ともにエネルギー・スペクトルのクボミ構造とカットオフ構造を確立し、目覚ましい進歩を遂げました。極高エネルギー宇宙線の到来方向については、TAの「ホットスポット」、オージェの双極子異方性のような興味深い現象が報告されています。オージェからは、エネルギーの増加に従って、成分が陽子から中重の原子核へと変化する傾向が示唆されました。これらの現象を理解することは、極高エネルギー領域での宇宙線粒子反応を明らかにする重要な契機です。オージェとTAの観測データから導かれた結果には、まだ互いに矛盾するものもあり、スペクトルの構造や異方性についても成因が特定できていませんが、このような状況は、むしろ極高エネルギー宇宙線にかかわる現象の背後に未知の機構が隠されていることを示唆しています。
  Progress of Theoretical and Experimental Physics (PTEP) の UHE CRs 特集号は、極高エネルギー宇宙線研究の最新の発展を伝える以下の論文によって、観測データとその解釈について、現時点での最善の理解を提供しようとするものです。極高エネルギー宇宙線研究の将来像についても、多様な観点から見通しが議論されています。オージェとTAの2つの実験グループによる今後の研究とこのPTEP特集号が、宇宙の極高エネルギー・非熱的現象の背後に隠された謎をとき、真実の解明に寄与する幸いにつながることを願います。


原論文は以下よりご覧いただけます
Origin of Ultra High Energy Cosmic Rays
Prog. Theor. Exp. Phys. 2017 Issue 12 (December, 2017)