お知らせ一覧

第46期会長の石井武比古氏逝去(3/17更新)

公開日:2021年3月15日

 本会の第46期会長を務められた石井武比古先生が、去る2021年3月12日にお亡くなりになりました。

 石井先生は、1957年に東北大学理学部物理学科をご卒業し同大学院博士課程を修了され、1962年に同大学理学部助手となられて光物性の研究に従事し、カナダ国立研究機構研究員を経て東北大学理学部助教授となられてから、東京大学原子核研究所の電子シンクロトロンから放出される軟X線を利用する光物性の研究を始められました。石井先生は、1960年代の初めに世界各地でスタートした放射光を利用する物質科学研究の黎明期から活躍されて、1979年に筑波大学物質工学系教授、1983年には東京大学物性研究所教授となられました。この間、東京大学物性研究所のSOR-RINGや高エネルギー加速器研究機構のPhoton Factoryなどの放射光研究施設の設立と、それぞれの施設での放射光利用研究の推進にも尽力されました。石井先生は、放射光を利用する物質科学分野で多くの研究成果をあげてこられただけでなく、1990年に日本放射光学会会長も務められてわが国の放射光科学の発展に大きな貢献をされました。

 石井先生の研究の優れた特徴は、軟X線を利用して得られる研究成果を通じて物質科学の他の研究領域とも密接に結びつき、多くの研究者の関心を集めて研究のさらなる発展を可能としたところにあります。金属電子のフェルミ端異常をアルカリ金属の内殻吸収スペクトルのスパイク構造として観測した研究は、物性研究者の注目も集め、放射光が物質科学研究に有用であることを改めて示すことになりました。また、放射光を利用して物質の電子状態を明らかにする光電子分光実験にも先鞭をつけられ、共鳴光電子分光、スピン分解光電子分光などへと発展させていかれました。

 1995年に東京大学を退官されたあと、石井先生はタイ王国に招かれて渡泰され、わが国で建設された光源加速器SORTECを移築してタイ国立放射光科学研究センターを開設する事業を陣頭指揮されました。気候・風土だけでなく社会制度や教育・研究環境が異なる中で、放射光研究センターを整備することは簡単ではありません。石井先生は、タイの若い研究者・技術者をトレーニングしながら、彼らと一緒になって計画を遂行され、2001年に光源加速器から放射光を得てタイ王国初の放射光研究センターを完成に導かれました。これらのご功績により、石井先生はタイ王国勲四等ディレクナボーン勲章を授与されています。

 以上のように、石井武比古先生は放射光科学分野において国内外で指導的な役割を果たしてこられただけでなく、1991年には第46期日本物理学会会長を務められて、わが国の物理学の発展に貢献してこられました。わが国の放射光科学のパイオニアの一人として、その発展を牽引し多くの人々に影響を与えてこられた石井先生のご逝去の報に接し,先生のご指導に改めて感謝申し上げますとともに、謹んで哀悼の意を表します。

令和3年3月17日

東京大学物性研究所

柿崎明人