会長メッセージ

会長メッセージ

会長2年任期スタート
 今期から本物理学会の会長任期が、これまでの1年から2年に変わります。学会が1877年設立の「東京数学会社」に源を発して138年目、1946年に「日本物理学会」として設立されてから69年目にして初めての制度変更です。歴代の理事会が周到な事前準備をし、シミュレーションを重ねて実施に至っていますので問題はないはずですが、自動車運転に例えれば、各種の道路標識や運転レーン区分が正しく変更されているかなどをチェックしながら進みます。

財政健全化に向けて
 今期スタートの号砲となる第95回定時総会(2015年3月31日開催)において、2016年1月に始まる事業年度からの年会費(正会員・学生会員の年会費、および正会員のうち大学院学生会員・シニア会員の減額年会費)を、一律1,000円値上げすることをご理解・ご承認いただきました。これまで物理学会の財政は慢性的に赤字だけでなく、その年度変化の1次微分係数は負であり、ここ数年は第2次微分係数自身が正に転じる可能性を見通せない状況でした。しかし、継続的な支出削減努力と第70回年次大会(2015年)からの概要集電子化による会員サービス向上と組み合わせた参加登録費の一律1,000円値上げ、ならびに30年ぶりの年会費の変更により、ようやく財政の健全化への道筋が見えてきました。今期?来期の2年間での財政状況についての情報を会員の方々と共有して、収支のバランスを見守ってゆきます。

会員システムの整備
 ほぼ10年毎の会員データベースシステムの更新に合わせて、会員管理業務の効率化と会員サービスの向上を目的としたシステム構築を行っています。2014年中に事務局での会員管理業務フローを整理し、IT機能として要求される事項を確定し、システムソフトウェア業者向けのRFP(Request for Proposal)を作成しました。そして2015年入って入札を経て発注業者の選定を行いつつあります。今期はじめに契約を締結して製作を開始し、2016年3月末までにシステムを導入し、2016年4月から本格稼働を目指しています。マイページ機能なども備えた最新の会員システムとなる予定です。

会員数漸減への対応
 会員数は1999年の約19,000人を最高に、それ以降1年に平均約150人の割合で減少し続けており、2015年3月現在での会員数は16,671名です。ただし、そのうち約2,500名の大学院生(正会員)+学部学生(学生会員)の数はほぼ変わっておらず、一般正会員数が漸減しているのが実情です。このように全会員数の年次変化の1次微分係数は負で、2次微分係数が正に転じる見通しはありません。人口の自然減による影響と手をこまねいているわけにはゆきませんので、大学院修了とともに物理系以外への就職を機に退会してゆく人たちに、物理への興味を持ち続けて物理学会に残ってもらうための経済的負担の少ない会友(仮称)等の制度導入を前期から検討しています。何といっても物理に興味を持ち続けてもらうことが肝要ですので、今期に制度を明確にして早い時期の導入を目指しています。
 会員を日本人だけでなく、国内に滞在中の留学生や海外(特にアジア・太平洋地区)にも求めるべきとのご意見も多く寄せられており、誠に尤もだと思います。日本物理学会は、海外から見て十分魅力的な求心力のある組織として、諸先輩方による歴史的な積み重ねがある学会であることに疑いはありません。しかし残念ながら、その組織の憲法である「定款と細則の英訳」がありません。このホームページのEnglishをクリックしても出てきません。これは学会として外国人の研究者に入会を呼び掛けるにしては決定的な欠陥であり、早急に手続きを踏んで改善を図る予定です。それとともに入会した日本人以外の会員がメリットを感じる物理学会自身の事業、および海外学協会との共同事業などの具体的な活動計画の策定が必要です。すでに設立され物理学会も主導的立場にあるアジア・太平洋物理学会連合AAPPS(Association of Asia Pacific Physical Societies)等との協働はその一つでしょう。これらは国際化の一環でもあり、今後可能性を探索してゆく必要があります。

国際・国内対応
 国際的な物理学の中心組織である国際純粋・応用物理学連合IUPAP(International Union of Pure and Applied Physics)に加盟している60か国(2014年11月現在)の中で、一国で純粋物理と応用物理の独立した二つの学会を持っているのは日本だけです。他の国では同じ学会として一つの組織にまとまっています。IUPAPへの窓口(Liaison Committee)は日本学術会議がその役目を果たしていますが、IUPAP Women in Physics Working Group(AAPPS Women in Physicsも同様)の活動への参加は、これまで日本物理学会と応用物理学会が連携して行ってきています。すなわち、IUPAPやAAPPSのような国際学協会から見ると、日本の対応は一体的に映るような内部努力がされてきました。これは両学会にとって重要な運用上の知恵と言うべきでしょう。
 「応用物理学会」は1930年頃の応用物理懇話会を源流とし、雑誌「応用物理」創刊の1932年を学会の起点として活動されています(1946年に社団法人として発足し、現在公益社団法人)。このように日本物理学会とはルーツを異にしていますが、両学会は共同して刊行センターを設置して学術誌の刊行業務の効率化を図るなどの努力をしてきた実績があり、また両学会に所属する会員も少なからずおられるので、両学会の会員のために役立つ連携協力事業を模索したいと考えています。幸い前期より、両学会の会長・副会長が年に2回程度意見交換する場を設けて、お互いに情報交換を行い始めたところです。
 国内の他の学協会との連携協力や社会連携事業は多岐にわたりますが、歴史的には比較的最近になって始まったものが多く、しかも支出こそあれ収入はほとんど見込めない、まさに社会貢献事業です。これらの事業がこれまでの財政赤字の原因の一つであることは明らかですが、男女共同参画推進、ジュニア・セッション、科学セミナー、公開講座、市民科学講演会、物理実験教室、キャリア支援、・・・、どれも対外的に重要な位置づけを与えられている継続すべき事業です。
 日本学術会議との連携協力は、マスタープラン、夢ロードマップ、物理学参照基準等の作成作業協力や男女共同参画・人材育成等の活動が主たるものですが、これらを通じて学術会議の重要な役割である政府への提言機能の強化に協力します。今期は主として物理学の参照基準作成協力に傾注する必要があります。

会員顕彰等
 昨年ノーベル物理学賞を受賞された3人の日本人のうち、非会員である天野浩先生と中村修二先生を、本会の目的達成に多大な貢献をした者として名誉会員に推挙し総会で承認されました(なお、会員である赤?勇先生はすでに名誉会員です)。また、昨年文化功労者に選ばれた佐藤勝彦先生は、物理学に関し功績顕著な会員として名誉会員に選ばれました。
 物理学会会員の優れた業績を学会自らが表彰する制度には、論文賞(本会発行の英文誌)と若手奨励賞(各領域)があります。さらに、本学会に対して外部団体から受賞や研究助成候補者の推薦依頼が毎年数多く寄せられています。これらの案内は、会員同報メールでお知らせするとともに、ご覧のホームページの会員向けバナー中にありますので、積極的な推薦をお願いします(受賞候補者は他薦、研究助成は自薦)。学会から推薦して受賞(採択)に至ったものと、会員が主要な賞の受賞者に選ばれたニュースについては、ホームページ上で順次紹介いたします。

 物理学会は、各事業年度(1月から同年12月まで)の事業計画・予算計画に沿って、各期(4月から翌年3月まで)の理事会が中心となり各種委員会の活動と事務局の強力な支援のもとに運営されています。これらの活動や色々な情報を会員の皆さんと共有して、「会員の、会員による、会員のための」学会の運営を目指します。

第71期会長
藤井 保彦
FUJII Yasuhiko
 
(第71期 会長任期:
2015年3月31日より2016年3月31日)