JPSJ注目論文

JPSJ 2023年7月号の注目論文:二次元多谷半導体系におけるポリ励起子

ポリ励起子は、複数個の励起子(電子と正孔の束縛状態)が結合した多量体である。一般の半導体では、励起子の二量体(励起子分子)は形成されるが、三量体以上のポリ励起子は形成されない。電子(正孔)がスピン自由度以外に内部自由度を持たないため、パウリ排他律により、二個以上の電子(正孔)が同じ位置を占めることができないからである。本研究では、二重二層グラフェンのタイプII構造を念頭に、電子と正孔がそれぞれ異なる二次元面に閉じ込められ、スピンだけでなくバンドの多谷構造に由来する四つの内部自由度を持つ系を考察し、パウリ原理の制限緩和により、励起子の三量体および四量体が形成されることを、量子拡散モンテカルロ法を用いて数値的に厳密に示した。さらに、ポリ励起子のエネルギーを解析して、すべての励起子同士の間に等価な結合エネルギーを持つ化学結合が形成されていることを見出した。

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原論文は以下からご覧いただけます。
Polyexcitons in Two Dimensions
Kaisei Ooe, Akimitsu Miyamae, Kenichi Asano, J. Phys. Soc. Jpn. 92, 073702 (2023).

JPSJ 2023年7月号の注目論文:トポロジカル物質で見つかったバルク超伝導と2次元超伝導の共存

層状構造をもつNaAlSiは、"ディラック点"と呼ばれる特徴的なエネルギーバンドの交点が線状に繋がる"トポロジカル物質"である。NaAlSiは転移温度7Kのバルク(試料全体)の超伝導体であることが知られていたが、詳細な磁気トルク測定からバルク超伝導とは異なる極めて2次元性が強い超伝導が共存していることが判明した。この結果はNaAlSiの結晶表面で特異な超伝導状態が形成されている可能性を示しており、トポロジカル超伝導体の研究に新たな展開をもたらすものである。

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原論文は以下からご覧いただけます。
Anomalous Diamagnetic Torque Signals in Topological Nodal-Line Semimetal NaAlSi
Shinya Uji, Takako Konoike, Yuya Hattori, Taichi Terashima, Tamio Oguchi,
Takahiro Yamada, Daigorou Hirai, Toshiya Ikenobe, and Zenji Hiroi, J. Phys. Soc. Jpn. 92, 074703 (2023).


JPSJ 2023年7月号の注目論文:戸田格子に潜むトポロジカルな側面 - 量子ポンプとの類似性が明らかになる

戸田格子は1967年に戸田によって発見された非線形波動の可解模型である。その厳密解を求めるための数学的手法(逆散乱法)や模型の一般化(戸田場の方程式)等の研究は、我が国を中心として発展し、物理の広範囲に多大な影響を与えた。一方、1983年のThoulessによる量子ポンプ現象の発見は、今まさに大流行中のトポロジカル量子相研究の先駆けとなった。本論文は、戸田格子と量子ポンプ模型の類似性を見出し、その結果、戸田格子のトポロジカルな側面を明らかにした。これまでの逆散乱法を基本にした可解模型の研究に、新しくトポロジーの視点が加わることになる。非線形波動の特徴である孤立波(ソリトン)解の安定性の議論などがこの新しい視点から可能になるかもしれない。

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原論文は以下からご覧いただけます。
Chern Numbers Associated with the Periodic Toda Lattice
Kyoka Sato and Takahiro Fukui, J. Phys. Soc. Jpn. 92, 073001 (2023).