会長メッセージ

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会長メッセージ

 この3月31日開催の第104回定時総会およびその直後の理事会において、第79期(2023年度)に引き続き、第80期(2024年度)の会長に選ばれましたので、2023年度の活動を総括し、2024年度に向けた私の思いを述べさせていただきます。

 定款第1号事業(学術的会合の開催)

 まず、年2回開催される大会を現在の対面・オンライン交互開催形式を続けるべきか、あるいはコロナ禍以前の対面2回に戻すべきか、多くの会員の皆さまからさまざまなご意見をいただいています。2024年9月の北海道大学、2025年9月の広島大学での対面開催、およびその間の春季大会はオンライン開催することをすでに決定していますが、問題はそれ以降どうするかです。現在、理事会では、会員の皆さまにアンケート調査をして、それをもとに議論しようとしています。対面形式とオンライン形式の長所・短所はご承知のことと思いますのでここでは繰り返しませんが、理事会としては次の1年間の最重要課題として取り組むことにしています。
 また、この1年間、新しい領域として『計算物理』領域を新設する準備を進めて参りました。現在、領域委員会が中心になって具体化を検討しています。ご承知のように、第一原理計算や分子動力学などの大規模計算だけでなく、データ科学や深層学習などの手法が急速に発達し、分野横断的に広まっています。それぞれの対象に適用した研究の成果は、それぞれの領域で発表することは従来と変わりませんが、対象や分野に依らない計算手法の研究成果を発表する場として新領域の必要性が認識されてきました。議論が順調に進めば、 2025年9月の広島大学での年次大会から新領域が試行されるかもしれません。この新領域が、物理学のフロンティアを拡げて、JPSの求心力をさらに強めることを期待しています。
 また、学術的会合として、会員の皆様がそれぞれの専門分野の国際会議を開催する場合、JPSは準備金を貸し出してサポートすることを開始しました。その応募要領や申請書は、会員各自のマイページからダウンロードできますので、積極的にご活用ください。

定款第2号事業(学術誌・学術図書類の刊行)

 JPSは、ビジネスモデルの異なる2つの英文ジャーナルを刊行しているのが特徴です。つまり、購読料モデルのJPSJとAPC(Article Processing Charge)モデルのPTEPです。大雑把に言えば、情報を受け取る側が費用を払うのか、情報を発信する側が費用を払うのかの違いです。JPSJの海外での販売は、AIP(American Institute of Physics)出版社に委託しており、かねてからの円安で収支状況は好転しているものの、投稿論文数と出版論文数ともに長期漸減傾向が続いていますので、抜本的な対策を考える必要があるかもしれません。また、PTEPは、2020年のReview of Particle Physicsの掲載を機にインパクトファクターが上昇し、質の高い論文を継続的に掲載していますが、収支状況が厳しく、さらなる支援機関獲得などの対策が必要となっています。世界的なオープンアクセスの潮流のなかで、2つのジャーナルの価値を上げる戦略的対策を考えることが必要と認識しています。
 JPSは学術図書をあまり出版してこなかったのですが、後述する周年記念事業の一環として図書出版の議論を開始しています。JPSがかつて出版していた論文選集のような各専門分野への入門書、あるいは「ジャーナルの論文をよくするために」のような若手向けの指南書などが考えられます。また、1990年に出版された「文部省学術用語集 物理学編増訂版」の改定も考えられます。電子出版やWeb辞書のような形も考えられます。いずれも大掛かりな新しい委員会を作る必要があるでしょう。

定款第3号事業(国内外の団体との交流)

 JPSの国際的な交流事業は、AAPPS(Association of Asia Pacific Physical Societies, アジア太平洋物理学会連合)を中心に行っています。対応委員会をJPS内に設置して組織的に関与してきました。さらに、AAPPSの各Divisionとのコラボなどを通して、JPSの大会を国際化するという方向性は有意義と考えます。また、AAPPS Bulletinの編集にも積極的に関わってきましたので、今後もそれを継続していきます。
 国内的には、応用物理学会との共同がもっとも重要かと思います。2025年の国際量子科学技術年記念イベントなどでも協同することになっています。また、JPSは日本学術会議と密接に関わってきましたが、現在、学術会議が組織として過渡期にあることもあり、状況の推移を見守っているところです。

定款第4号事業(教育・人材育成・社会連携事業)

 JPSは、次世代人材育成プロジェクト(https://www.next.jps.or.jp/)を立ち上げ、協賛企業からの支援を受けながら教育関連の事業を展開しています。中高校生の課題研究の発表会であるJr. セッションは、コロナ禍を機にオンライン開催となりましたが、毎年、100を超えるチームからの応募があり、質の高い研究発表が増えてきています。2023年3月から、最優秀賞および優秀賞のチームには、高額協賛金をいただいた協賛企業の名前を冠した冠賞を授与して中高校生たちを激励することになりました。 
 また、毎回多数の参加者を集めるオンライン物理講話や公開講座などは、最先端の研究トピックスを高校生や学部大学生、一般市民などに広く広報する貴重な機会となっており、科学に対する継続的な啓発活動となっています。また、国際物理オリンピックの国内予選である物理チャレンジへの支援も継続しています。さらに、高校物理の授業に役立つ基本実験講習会は、東京だけでなく、JPSの多くの支部においても開催され、高校での物理実験のレベル向上に大きく寄与しています。
 2023年度には、自主的に活動している若手研究グループの調査を行い、JPSのWebページ(https://www.jps.or.jp/keijiban/wakategroup.php)に一覧表としてまとめて公開しています。これによって、各グループの露出度を上げ、それぞれの活動をサポートできると期待しています。各グループからは、さらに有料オンラインツールの料金や集会の会場費の補助などの希望が出ていますが、理事会で若手グループのサポート施策を次のステップに進めるべく議論していきたいと考えています。
 2023年9月の年次大会および2024年3月の春季大会において、外国人会員と対話するインフォーマルミーティングを開いて、問題点を議論しました。会員データベースによると、JPSの会員の約2%が、日本語を十分に解しない外国人会員です。このような外国人会員のフレンドリーなインクルージョンのやりかたをダイバーシティ推進委員会で検討していますが、2024年度には、会誌を含め、会員に発信する情報をバイリンガル化するなど、さらに踏み込んだ施策をしていきたいと考えています。
 さらに、高校生や大学生、一般市民を対象にした会友制度を拡充する議論を本格化しています。まず、高校生と学部大学生の会友会費を無料化することにしました。また、会友向けのメルマガのコンテンツを充実すべく議論をしています。会員の皆様のプレスリリースの情報を集めたまとめサイト(https://www.jps.or.jp/keijiban/keijiban_press.php)をJPSのWebページ上に作って公開しています。会員の皆さまが研究成果をプレスリリースした時には、積極的にこのページへの掲載を申し込んでください。会員であれば誰でも申し込めます。会友は、JPSを取り巻く重要なシンパですので、ますます増やしたいと考えています。その一環として、「物理検定試験」(略して物検)のようなシステムを作って資格認証事業を始めるのもいいのではないかという提案もされています。これが実現すれば、物理を中心とした科学リテラシー向上に大いに寄与するものと期待しています。

定款第5号事業(その他の事業)

 2027年は、当会の前身である東京数学会社(のちの東京数学物理学会)の設立から数えて創立150周年を迎え、また、その年はニュートン没後300年の記念でもあります。さらに、2026年には、戦後に日本物理学会として再出発してから80周年記念を迎えるため、周年記念事業の議論を少しずつ行ってきましたが、2024年には、周年記念事業委員会を立ち上げ、具体的な事業の検討を開始します。物理学史の上で重要な史跡、建物、器具、書類などを指定する「物理遺産」プログラムを始めたり、上述の各種図書の記念出版、科学館などでの展示、映画やTV番組の製作などを検討する予定です。あるいは支部や委員会からイベントを募集するなど、さまざまな形での事業の可能性を考えています。これらの事業の原資は、寄付だけでなく、約4年間にわたるコロナ禍のために種々の活動が制約されたことによって思いがけずに増えた内部留保金を充てることを考えています。これらの周年記念事業を機に、特に高校生や大学生など若手に学会の存在をアピールし、長年続いている会員減少傾向に歯止めをかけたいと夢見ています。

 最後に法人運営に関する取り組みを述べます。それは、私の会長選挙のときに公約した公益社団法人化の件です。この1年間、当会の事業内容や協賛企業からの支援などさまざまな学会活動を見て来ました。それらの活動の公益性は大変高いものがあり、また協賛企業などの社会連携が強化されています。また、物理検定のような資格認証事業を始めるのであれば、やはり当会は公益社団法人になるべきという確信を強くしましたので、2024年度には、それに向けた具体的な調査・準備を開始したいと考えています。
 新規事業を含む上述の各種事業について、会員の皆様のご理解とご協力が不可欠です。委員などをお願いしたとき、可能な範囲で結構ですので、嫌がらずにお引き受けください。あるいは、興味ある活動には自発的に手を上げて委員となっていただいても構いません。大勢の会員の皆さまが少しずつ負担を分け合えば、一人一人の負担はそれほど大きなものにはならないと思います。是非よろしくお願いいたします。

第79期会長
長谷川 修司
HASEGAWA Shuji
(第80期 会長任期:2024年3月31日より2025年3月31日)
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