日本物理学会誌

第66巻第08号

cover-11-08.jpg表紙から
反水素原子の磁気瓶への閉じ込め,さらに,反水素原子ビーム 発生装置における反水素合成が,昨年相次いで実現された.いずれもこれまで不可能であった反水素の精密分光を可能にし,冷反物質研究に大きな進展をもたら すと期待される成果である.これらは,様々な場面で話題になり,例えばPhysics World誌は,Breakthroughs of the year, 2010を10件選び,この二つの研究をその中で最も重要であると位置づけた.表紙の二つの図は,反水素ビーム発生装置(上図)と反水素捕捉磁気瓶(下 図)の模式図である.反水素ビーム発生装置では,反水素の原材料である反陽子と陽電子を,図の左下からカスプ磁場コイルのある領域まで導き,多重円筒電極 (内径80.0 mm)で形成する入れ子ポテンシャルと組み合わせることで,同時閉じ込め,反水素合成を実現した.反水素は,カスプ磁場によってLFS (Low Field Seeking)状態が選択的に収束され,上流側に偏極した反水素ビームとして引き出される.このようにして磁場のない領域に反水素を引き出すことで,基 底状態にある反水素の超微細分裂を高い精度で決定することができる.反水素捕捉磁気瓶は,ミラーコイル(緑色の二つのリング)と八重極コイル(赤色の蛇行 したコイル)からなる.それぞれ,LFS状態にある反水素を軸方向,あるいは,動経方向に閉じ込める役割を果たす.中央の黄色い部分は多重円筒電極(内径 44.5 mm)で,やはり入れ子ポテンシャルを形成し,反陽子と陽電子を磁気瓶領域に閉じ込め,Auto Resonance法によりそっと混合することで,極低温の反水素を合成した.このようにして反水素を捕捉することで,1S-2S間準位の高精度レーザー 分光がいよいよ現実のものとなった.詳細は本号に掲載されている黒田直史氏らの「解説」記事を参照のこと.



■口絵 
  今月号の記事から  587

■巻頭言
  ・第66回年次大会中止日誌
      並木雅俊 593

■解 説
  ・折り返し点を通過した冷反水素研究-カスプトラップによる
    反水素の生成と磁気瓶への閉じ込め- 口絵
      黒田直史,檜垣浩之,山崎泰規 594

■実験技術
  ・強誘電体の自発電気分極等の測定の極意
      山口俊久,高重正明 603

■最近の研究から
  ・流体力学で高次元ブラックホールを理解する 口絵
      宮本雲平 610
  ・ハニカム格子反強磁性体が示すフラストレーション 口絵
      東 正樹,松田雅昌 614
  ・重力波天文学のターゲットとしての相対論的連星系:
  ポストニュートン近似による新しいアプローチ
      伊藤洋介 618
 

■JPSJの最近の注目論文から Vol. 80 (2011) No. 5より
         川畑有郷 622

■シリーズ「物理教育は今」
  ・これからの理科教育について
      兵頭俊夫 625
  ・ピア・インストラクションとは何か
      新田英雄 629 

■学界ニュース
  ・科学技術分野の文部科学大臣表彰 632

■歴史の小径
  ・ボルツマン家の二つの不幸
   勝木 渥 633 

■談話室
  ・We believe in Fukushima.
   ~福島再生のための放射線計測~ 口絵
   山口克彦 634

■新著紹介 638
  量子力学の基礎 :  筒 井   泉 〈KEK〉
  Nuclear Reactions for Astrophysics; Principles,
  Calculation and Applications of Low-Energy Reactions : 
  緒 方 一 介 〈阪大核研セ〉
  目で見る美しい量子力学 :  前 田 京 剛 〈東大総合文化〉

■編集後記   谷本 久典