日本物理学会誌

第67巻 第06号

表紙から


宇宙空間を航行する宇宙帆船の実証機として,ソーラーセイル「IKAROS」は金星探査機「あかつき」とともに2010年5月に打ち上げられた.世界に先駆けた宇宙技術を実証するために,IKAROSには日本独自のアイデアが盛り込まれ,ミッションの成功によって将来の木星探査等への展望を拓いた.左上の図は,小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSの打ち上げ前の写真.直径1.6 m,高さ0.8 mの円筒形の本体の側面に膜面が収納されている.下図は,IKAROSの膜面の展開方式.打ち上げ後,スピンの遠心力を用いて膜面を展開する.(1)先端マス分離,(2)一次展開,(3)二次展開の3つのプロセスに分けられる.一次展開では,膜面の根元を押させている回転ガイドを本体に対しゆっくりと相対回転することでゆっくりと膜面を繰り出し,十字の形状とする.二次展開では,回転ガイドを倒して一気に膜面を展開し,正方形の展張状態とする.右上の図は,IKAROSの二次展開時の角速度データ.回転ガイド解放後,角運動量保存により,スピン軸であるz軸の角速度が減少している.また,膜面を動的に展開したことで,ニューテーションが発生していることが分かる(数時間後には減衰した).詳細は本号に掲載されている森 治氏,津田雄一氏の「実験技術」記事を参照のこと.




■口絵
今月号の記事から371

■巻頭言
物理学って難しい 本林 透 375

■最近のトピックス
ヒッグス粒子に迫る 浅井祥仁 376

■実験技術
ソーラー電力セイル実証機IKAROS 森 治,津田雄一 378

■最近の研究から
パターン形成と結合した液滴の自発運動 
北畑裕之,義永那津人,永井 健,住野 豊 385
二重ベータ崩壊の核行列要素を検証する 矢向謙太郎,酒井英行 389
エネルギー・スケール変調による量子系の境界条件・トポロジーの制御
引原俊哉,桂 法称,丸山 勲,西野友年 394
一般化されたハイゼンベルグの不確定性関係の実験的検証 
長谷川祐司 398

■JPSJの最近の注目論文から 2月の編集委員会より 川畑有郷 403

■シリーズ「物理教育は今」
日本物理学会第7回Jr.セッション報告 北本俊二,松尾正之 406

■ラ・トッカータ    教養としての物理教育:過去・現在と将来 国府田隆夫 409

■歴史の小径    ガリレオの知財戦略 田中一郎 411

■追 悼    橋本 治先生を偲んで 田村裕和 413

■新著紹介414
・BCS: 50 Years:青木秀夫

■編集後記 古川 勝