会誌Vol.72(2017)「新著紹介」より

このページでは、物理学会誌「新著紹介」の欄より、一部を、紹介者のご了解の上で転載しています。ただし、転載にあたって多少の変更が加わっている場合もあります。また、価格等は掲載時のもので、変動があり得ます。

惑星形成の物理;太陽系と系外惑星系の形成論入門

井田 茂,中本泰史

共立出版,東京,2015,vii+130p,21×15 cm,本体2,000円(基本法則から読み解く物理学最前線6)[専門・大学院向]ISBN 978–4–320–03526–3

紹介者:佐々木 貴教(京大院理)

  1995年10月,人類は初めて太陽以外の恒星の周りに惑星を発見する.「系外惑星」という新たな学問分野の幕開けである.それからわずか20年ほどで,発見された系外惑星の数は瞬く間に3,500個を超えた.驚くべきは,この膨大な「量」だけではない.20年の間に,「質」的なブレークスルーも次々と起きてきた.
  1995年:巨大ガス惑星の発見
  2002年:惑星大気成分の同定
  2005年:赤外輻射観測による惑星温度の推定
  2007年:スーパーアースの発見
  2008年:巨大ガス惑星の直接撮像
  2010年:地球型惑星の発見
  2011年:周連星惑星の発見
  2014年:ハビタブルゾーン内の地球型惑星の発見
  これほどまでに急激な勢いで進歩し続けている学問分野が,他にあるだろうか.「系外惑星」は,いまや最もエキサイティングで,最もアクティビティの高い学問分野であるといえよう.
  こうした異様な盛り上がりをうけ,近年では多分野からの新規参入も活発だ.物理学を専攻してきたものにとっては,系外惑星系の形成メカニズムや力学進化などが,魅力的な研究テーマとなっている.若い分野であるが故に,過去の蓄積が無くとも短期間に一気に世界の最先端研究の仲間入りができる点も,参入障壁が低い理由であろう.特に惑星形成理論の分野に関しては,まさに「群雄割拠」の時代がやってきている.多様な系外惑星が発見されたことにより,古式ゆかしき太陽系形成論の枠組みは大きく変更を迫られ,新たなシナリオやアイデアが次々と台頭してきているのだ.
  そこで本書である.系外惑星の形成理論に興味を持たれた方には,まず何よりも最初に本書を手に取って一読していただきたい.本書の構成は以下のとおりである.
  第1章では,系外惑星の観測と惑星形成理論の現状が簡単にまとめられている.第2章では,惑星形成理論に関する基礎的な物理が簡単に紹介されている.本書のメインパートである第3章では,現代の惑星形成理論の枠組みの中で重要なプロセスに関して,その背景にある物理を中心に丁寧に解説されている.そして最終章では,2000年代前半に著者(井田)らが考案した「惑星分布生成モデル」の概要を示し,最先端の研究への橋渡しを行っている.
  基本的には学部レベルの物理学・物理数学の知識があれば読めるように書かれているので,気負うことなく読んでほしい.ただし本書は,あくまでも2010年代半ばにおける惑星形成理論の「到達点」を示したものであり,この分野の最終ゴールを示した「集大成」ではない点には注意が必要だ.そのため,惑星形成理論についての「知識」を得るために読むのではなく,「方法論」を学ぶことに重点をおいて読んでもらいたい.
  本書を一通り読みきれば,最新の惑星形成理論の現状を学び,新しい研究に取りかかるための準備が整うはずだ.その後は,ぜひ系外惑星の大海に乗り出し,最先端の論文を読んで議論するなり,独自のモデルを構築して世界に打って出るなり,新たな研究生活を自由に楽しんでいただきたい.
(2016年4月25日原稿受付)



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プラズマ物理の基礎

宮本健郎

朝倉書店,東京,2014,viii+322p,21×15 cm,本体5,600円[専門~学部向]
ISBN 978–4–254–13114–7

紹介者:上田良夫(阪大院工)

  この教科書の歴史は,1976年に出版された『核融合のためのプラズマ物理』(第1版,岩波出版)までさかのぼる.私の手元には,この改訂版(1987年),英語版(Fundamentals of Plasma Physics and Controlled Fusion,1997年,岩波ブックサービスセンター),『プラズマ物理・核融合』(2004年,東京大学出版会),『核融合のためのプラズマ物理』(2009年,核融合科学研究所)があるが,これらは一連の出版物の一部に過ぎない.ちなみに,中国語版も見たことがある.初版本は,誤植が散見したため,改訂版を購入したときに廃棄した記憶があるが,この大事業の価値を鑑みるに手元に置いておくべきだったと後悔している.
  この教科書は,この一連の宮本先生のライフワークの最新版である.内容は,大学生や大学院生を対象とした,磁場閉じ込め核融合を主に念頭に置いたプラズマ物理と,核融合プラズマ研究の歴史や最新の研究成果の紹介である.核融合プラズマの研究を志す者が知る必要のあるほぼすべての分野について説明があり,本書を一読することで,この分野で研究を行っていくための広範な基礎知識が得られる.宮本先生の一連の教科書は,改訂や再出版にあたり,読者によりわかりやすく有用な情報を伝えることと最新の情報を盛り込むこと,の2点を常に念頭に置いて書かれており,その集大成とも言える本書は,初学者だけではなく,研究者にも大変に参考になる教科書である.また,重要な数式については,省略せず丁寧に記述されていることで,数式の導出に多くの時間を取られずに物理の理解に集中できるような配慮もされている.
  第1章と,第2章では,プラズマの基礎知識,プラズマの諸量,クーロン衝突,等について説明があり,一読することでプラズマの概念を理解できる.続いて,第3章では,一般的な電磁場の性質と,主にトーラス磁場中の荷電粒子の運動について詳細な説明があり,特に捕捉荷電粒子の運動について深く理解できる.第4章では,プラズマ物理学において最も基礎となる方程式である,速度分布関数に関するボルツマン方程式が説明される.
  第5章から第9章は,プラズマを電磁流体と見なした場合の,磁場閉じ込め系における平衡,閉じ込め,安定性を説明しており,磁場閉じ込め方式の核融合システムを理解する上で,重要な内容が網羅されている.第5章では電磁流体の運動方程式,第6章ではプラズマを平衡状態に保つための平衡条件,第7章ではプラズマが平衡状態で安定な場合の拡散と閉じ込め,について説明がある.さらに,磁場閉じ込めでは平衡状態が安定であることが重要であり,第8章ではプラズマ抵抗が零の理想的な場合の代表的な不安定性,第9章ではプラズマが有限な抵抗を持つ場合の抵抗性不安定性について説明される.
  第10章からは,プラズマ中の電磁波動に関する説明が詳しくなされる.第10章では電磁波動理解の基礎となる冷たいプラズマ中の波動が説明され,続いて有限な温度のプラズマを想定し,第11章でランダウ減衰とサイクロトロン減衰,続く第12章では波の伝搬に続いて,熱いプラズマの分散関係が説明されている.さらに,第12章の後半では,磁場閉じ込めプラズマの波動加熱や電流駆動を想定した具体的な説明がなされており,実際の研究にすぐに生かせる内容である.
  第13章は,本教科書で新たにまとめられたものであり,乱流によるプラズマ輸送を扱っている.ここでは,従来の教科書でも取り上げられていた,揺動損失やボーム拡散等に加えて,最近の重要な研究課題である帯状流について詳しい説明がある.最新の研究内容を盛り込んで発展し続ける宮本先生の教科書の真骨頂とも言える部分である.
  第14章以下は,核融合研究全般の歴史と,具体的な3種類の方式に対する詳しい説明がなされている.まず,磁場閉じ込め核融合の中心的な装置であるトカマク,続いて主に東京大学で教鞭を執っておられた時代に研究対象とされていた逆磁場ピンチプラズマ,及び慣性閉じ込めである.記述をこれらの方式のみに絞り,重要なポイントをわかりやすく説明している.
  この教科書は,著者である宮本先生のプラズマ物理をわかりやすく伝えたいという長年の思いが強く感じられる名著であると思う.特に磁場閉じ込め核融合プラズマの研究を行う大学院学生には必携であり,またこの分野の研究者にとっても,知識の整理や新しい研究を始めるときの参考書として有用である.なお,宮本先生は,核融合研究の第一線を退かれてすでに10年以上が経ったが,今でも機会あるごとに新しい論文に目を通して,最新情報を得ておられると伺っており,頭が下がる思いである.
(2016年8月18日原稿受付)



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初歩の統計力学を取り入れた熱力学

小野嘉之

朝倉書店,東京,2015,vi+206p,21×15 cm,本体2,900円(シリーズ〈これからの基礎物理学〉1)[専門~学部向]ISBN 978–4–254–13717–0

紹介者:香取眞理(中大理工)

  標記のタイトルから本書の独創的な試みが想像できることだろう.著者のアイデアは次のようである.従来大学で,熱力学と統計力学をこの順番で積み重ね式に教育しているのは,おそらく歴史的経緯を反映した結果であろう.しかし,物質の原子的描像と量子力学という理論の存在が広く受け入れられている現代では,熱力学の最初から,統計力学的な解釈・説明を取り入れて教えるという方式があってもよいのではないか.そのために,確率・統計の考え方や,初歩の量子力学についても一緒に教えてしまう.そうすれば,非物理系の理工系学生たちにも現代物理学の面白さを伝えることができるし,物理系学生たちも,形式的な熱力学の体系の背後にあるミクロな構造を知ることで,理解が深まるはずである.(以上,「まえがき」前半の概要.)
  確かに,熱力学の講義でファンデルワールスの状態方程式を導入するときは,気体分子運動論の立場に立ち,レナード=ジョーンズポテンシャルのグラフを書いて説明するのが分かりやすい.気体の混合エントロピーの計算でも,容器中に2種類の気体分子を色分けでもして描いた図があれば話は早いし,ギブスのパラドックスの説明もしやすい.統計力学を一緒に教えてもよいのなら,これに対する処方箋(分配関数をN!で割る工夫)も話せる.黒体輻射のスペクトルの話題は「温度と色」といういかにも熱力学的な話なので,もしも量子力学の計算も交えて講義できるなら,心置きなく説明できる.本書は,上述のような試みをすべて行った上に,相転移のランダウ理論を詳説する.臨界指数にまで話は及び,それらは系のミクロな情報をマクロなレベルで見せる指標であると説く.
  これだけ広範かつ高度な内容を含みながら,本書では熱力学・統計力学の偉人たちの写真と共に史実も語られ,また,熱力学の公式暗記術「ラッキーセブンの公式」の図解もある.標記の通りコンパクトな1冊で,どうしてこれが可能なのか.
  評者は次のように考えた.この本は,卒研や研究室セミナーで,熟達した先生がやる一連のお話をまとめたものなのである.したがって,話題の内容と順番は先生が話しやすい(つまり,学生たちに伝わりやすい)ように工夫されているが,決して簡単ではない.その順番こそがポイントであり,実はどこから話を始めてもよく,どこで(その回は)終わってもよいようにできている.
  学部生や大学院生にはもちろん,研究室を立ち上げてまだ間もない若手の教員にも,本書の一読を薦める.学部教育では,内容を科目ごとに分割し集団的に教育するが,大学院教育では,各教員が自分のところの学生に一人ですべて教える.この伝統的なシステムの功罪についても考えさせられるからである.
(2016年8月29日原稿受付)



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不安定核の物理;中性子ハロー・魔法数異常から中性子星まで

中村隆司

共立出版,東京,2016,viii+181p,21×15 cm,本体2,000円(基本法則から読み解く物理学最前線8)[専門~学部向]ISBN 978–4–320–03528–7

紹介者:宮武宇也(KEK)

  物理のフロントラインを,研究者自らが最先端の成果をもとに解き明かす.原子核物理の基礎知識を網羅的に伝える教科書ではない.むしろ「不安定核物理」に限定して,現場で活躍する研究者の動機と目的を縦糸に,ブレークスルーとなる実験装置や方法の発明と発展を横糸に組まれた啓蒙書だ.学部生程度の基礎知識で不安定核研究とその研究者の魅力に触れられる.
  第1章「はじめに」,第2章「原子核の限界」,第3章「不安定核を作る」という基本項目とトピックスを扱う第4章「中性子ハロー」,第5章「不安定核の殻進化」,第6章「中性子過剰核で探る中性子星」,展望をまとめた第7章「結び―不安定核物理の展望」という構成.適宜相互参照されているので飛ばし読み可能だが,研究の醍醐味を知るには冒頭から読むことを勧めたい.
  1,2章では「原子核はどこまで存在しうるのか?」という素朴な疑問を引き金に,質量公式の対称エネルギー項から核力の中心力と非中心力までをストレートフォワードに,かつ丁寧に説明している.3章は不安定核生成のための実験技術,いわゆるIn-flight法とISOL(Isotope Separator On-Line)法の解説.核反応の運動学的特徴を生かした前者と化学・原子物理的知識を基礎とした後者を原理から説明する.
  本書の圧巻は4,5,6章.4章では量子トンネル効果によるハロー現象の理解に始まり,ソフト双極子励起から見えてきた2中性子相関におけるテンソル力の重要性が実験データとともに語られる.殻模型の概念導入が,議論の途上で簡潔な説明とともに現れる.これは新鮮だ.殻模型は,安定な原子核の標準的な1粒子軌道エネルギー準位を与えるが,そこからの逸脱現象の理解こそが本書の中心テーマなのだ.5章では視野が広げられて,中性子ハローから原子核ドリップライン近傍に現れた異常現象へと誘われる.着目するのは,基底状態に2粒子2空孔状態のスピン・パリティが現れる「逆転の島」.殻進化と呼ばれる物理描像の発展と未解明要素が,今後の展望とともに語られる.6章では視点を変えて,ホットな研究課題である中性子星の物理と中性子過剰な不安定核研究との緊密な関係が解説され,本書で触れなかった研究項目とともに,分野の展望がキーワードの形で7章にまとめられる.
  進路模索中の学部後期学生に是非とも読んでもらいたい本である.実際にその頃の私には,同一出版社の大槻義彦編『物理学最前線』(本シリーズの前身だと思うのだが)が面白くてタイムリーな出版物だった.一方,須藤彰三・岡真監修による本シリーズでは1テーマに1冊が割かれており,式を含めた丁寧な解説が可能となっている.その点では大学初年度の学生にも良き入門書であり,基礎物理を教える教員・研究者の方々にも概念の整理を行う上で適している.
(2016年8月30日原稿受付)



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核の誘惑;戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現

中尾麻伊香

勁草書房,東京,2015,vii+384+20p,22×16 cm,本体3,800円[一般向]ISBN 978–4–326–60280–3

紹介者:平田光司(総研大/KEK)

  原爆の被害国であるにもかかわらず,日本は戦後の早い時期に原子力を(喜んで,とまでは言えないかもしれないが,大きな反対もなく)導入した.本書は,この点について納得のいく説明を提供してくれるものである.
 本書によれば,日本人にとって核,原子力は原爆によって登場したのではなく,戦前から魅力あるものとして認識,受容され,日本人を「誘惑」し続けていた.日本人が抱いていたものが書名の一部となる「原子力ユートピア」,核・原子力の利用によって生まれる夢の世界という期待に満ちた神話であった.
  本書は大きく2つの部分からなり,第1部「放射能の探求と放射能文化の創生」では戦前の「核」に関する「大衆」の関心がテーマとなる.「核」はまず,心霊現象や千里眼との関わりで興味を持たれた.放射線の医学利用が進むと,ガンを消し健康を促進する「良いもの」として放射線が認識されるようになる.優れた放射線源としてラジウムが注目された.高価なラジウムを人工的に製造できる装置として出現したのがサイクロトロンであった.さらに,温泉にラジウムから生じるラドンの成分が発見されることによって,温泉の効き目の原因物質としても認識されるようになった.良い温泉ほどラジウム・ラドンの存在量が多いという測定結果があった.放射線による障害も知られていたが,それも放射線の「威力」の現れであるとされ,ラジウムの魅力を損なうことはなかった.
  第2部「原子核の破壊と原子力ユートピアの出現」では,核エネルギーの利用,原爆を期待する大衆のイメージと,それを利用して大型サイクロトロンの建設の必要性を訴える物理学者,決戦兵器の開発を宣伝して戦意高揚をはかる軍部,そして原爆投下後の様子が描かれる.広島,長崎の惨禍は,原子力・核エネルギーの素晴らしさの証明として,むしろ原子力ユートピアを強めるものであった.原子力ユートピアの形成は,物理学者,マスメディア,および政府,軍部の共同によって生まれたものであり,放射線障害や原爆の残酷さにもかかわらず戦後にもほぼ無傷で生き延びたものであるとしている.
  本書の記述は丁寧であり,説得力がある.社会との相互作用の中で科学を記述するという「科学の社会史」の流れを継承する著作と言える.残念な点としては,本書の記述が日本における原子力利用の開始の前で終わっていることだ.原子力の推進は原子力ユートピアの幻想を利用しつつ,それを強化することで行われたと思われるが,それについてはまた別の作品が必要となるだろう.著者に期待したい.
(2016年9月27日原稿受付)



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ワード-トンプソン&ウィットワース 星形成論;銀河進化における役割から惑星系の誕生まで

D. W.-Thompson,A. P. Whitworth著,古屋 玲 訳

丸善,東京,2016,xvi+404p,21×15 cm,本体15,000円[大学院・学部向]ISBN 978–4–621–08736–7

紹介者:井上剛志(名大理)

  本書は英国カーディフ大学を最近退官された星形成が専門の理論天文学者ウィットワース教授と観測天文学者ワード-トンプソン教授の著書An Introduction to Star Formationを星形成観測が専門の古屋玲准教授(徳島大学)が邦訳した星形成論の入門書である.ワード-トンプソン教授と古屋准教授は共に,現在進行中のハワイ島マウナケア山頂にあるジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を用いて行われる星形成領域の磁場観測プロジェクトであるBISTROの代表者であることから,両者のつながりは深く古屋准教授は訳者としてうってつけであったであろう.星形成に不慣れな読者はここまでの紹介を読んで「なぜ星形成と磁場が関係するの? なぜ望遠鏡で磁場が観測できるの?」と思ったかもしれないが,その疑問に対する答えも本書を読めば明らかになることは間違いない.
  本書を読めば,本格的に最先端の星形成を学ぶ,もしくは研究を始めるための基礎知識が全て身につくようになっている.2人の著者はそれぞれ理論と観測の専門家であるので,観測結果の単なる羅列に終わったり,過度に数式に埋もれたりすることなく理論と観測それぞれから得られている基礎が比較的コンパクトにまとめられている.本書の最大の特徴は,分量にして本書の約3分の1を占める巻末の補遺である.補遺の他にも本書には訳者による40ページに及ぶ注釈が加えられており,初学者に極めて優しい仕上がりになっている.本書のような入門的専門書の中には学部で習う熱力学,統計力学,電磁気学等の基礎知識がよく身についていることが前提となっていて,読み進めるのに学部時代の教科書を常に傍らに置いておかなければならないものも多い.その点,詳しい補遺に恵まれた本書は比較的軽快に読み進めていくことができるようになっている.巻頭に訳者が書かれているように,独習や輪読に勧めたくなる本になっている.
  日本語で書かれた本で専門的な知識を学ぶことの最大のデメリットは,オリジナルの専門用語まで日本語化されてしまっていて研究現場に出ると英語が出てこなくて困ることである.その点においても本書は非常に気が使われており,専門用語と思われる用語には全て英原文が併記されている.その点に関してここまで徹底的に気が使われている専門書を評者は他に知らない.総合すると,どうしても英国人が本物の英語で書いた本で星形成を学びたいというのでなければ,価格的には少し高くなってしまうが評者は本訳書をお勧めしたい.
(2016年11月4日原稿受付)



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科学の発見

北川米喜

文藝春秋,東京,2016,428p,20×14 cm,本体1,950円[一般向]ISBN 978–4–16–390457–3

紹介者:秋本祐希(Higgs Tan)

  本書「科学の発見(原題:To Explain the World: The Discovery of Modern Science)」は物理学に関わるものであれば知らぬものはいないであろう物理学者スティーブン・ワインバーグ氏が,テキサス大学の教養学部向けに行われた科学史の講義を元に執筆されたものである.わかりやすく科学史が説明されており,イオニアのタレスから始まり,古代ギリシアからニュートン,そして現代科学に至るまでの科学史の流れを把握するための読み物として役立ち,そして,面白いものである.
  しかし,「はじめに」でワインバーグ氏は,「本書は不遜な歴史書」と記している.
  何故か.
  本書では現代の科学知識をもって,過去の科学の偉人を評価しているのである.特に,研究対象を純粋に方法論的自然主義に従って考察しているのか,あるいはそこに人間的・宗教的価値を持ち込む立場を取るのか,というところにその評価の軸を置いている.
  現代科学においては,前者の態度をとることが当然であると考えられているが,アリストテレスやケプラー,近年ではアインシュタインでさえこのような態度を取り続けることができなかった.自分は本当にこのような科学的態度を取れているのか,現在の科学に携わるものとして改めて自省させられる.
  解説で大栗博司氏も述べているが,現在の基準で過去を裁くというウィッグ史観は「勝ち残ったものが一方的な視点で見た歴史」であり,歴史学の分野では禁じ手である.ワインバーグ氏がウィッグ史観によって過去の偉人を評価するというこの態度は,歴史家などの批判を生み出し,多くの論争を巻き起こしたそうである.
  だが,ここで我々が考慮すべきことは,ワインバーグ氏が評価しているのは科学に関する歴史であるということであろう.いわゆる勝者と敗者が存在するような歴史とは異なり,科学は自然の有り様を説明するために作られたものであり,それは進歩の歴史である.現在の科学は過去の科学より自然の有り様を上手く説明できる.このため,現在の視点から過去の科学の手法を批判的に見ることは,現在の科学の成り立ちを理解するのに役立つ.そして現在の科学が未だ完成されたものではなく,未来の科学による批判を受けるかもしれない,という警告ともなるのである.このように考えると,なぜ確信犯的にウィッグ史観を用いたのか,私には,ワインバーグ氏の科学観の一端が見えてくるように思えるのである.
  本書はワインバーグ氏の持つ科学観に基づいた「不遜な歴史書」である.その評価はやはりわかれるものであろう.しかし,科学に携わるものとして,ぜひ一読して頂いた上でご自分なりの評価をして頂きたい本である.
(2016年9月5日原稿受付)

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パーフェクトPython
ハイパフォーマンスPython

Pythonサポーターズ
M. Gorelick,I. Ozsvald著,相川愛三訳

技術評論社,東京,2013,463p,24×19 cm,本体3,200円[学部・一般向]ISBN 978–4–7741–5539–5
オライリージャパン,東京,2015,xxi+335p,24×19 cm,本体3,600円[学部・一般向]ISBN 978–4–87311–740–9

紹介者:川面洋平(オックスフォード大学)

  PythonはWEBアプリ開発,機械学習など様々な分野で使われている汎用プログラミング言語であり,物理学においても実験データ解析や可視化に使われている.Pythonを使う利点は,他の言語と比較して同じ作業を簡潔なコードで書くことができることである.また豊富な統計解析・数値解析ライブラリが開発されており,それらはオープンソースであるため導入コストを気にする必要がない.メジャーなOSに対応しているため,ソースコードの共有も容易である.さらにユーザー数が多いため,必要なドキュメントやトラブルシューティングをオンライン上で容易に見つけることができる.このような理由から,今後物理学の分野においてPythonユーザーの数は増えていくことだろう.ここでは入門者向けの「パーフェクトPython」と上級者向けの「ハイパフォーマンスPython」を紹介する.
  「パーフェクトPython」は言語仕様から代表的なライブラリの使い方まで網羅的に解説した入門書である.平易に書かれているので,何か別の言語での開発経験があれば一日で読み通すことができるであろう.新しく実験データ解析を始めた学部生や大学院生に是非読んでいただきたい.前半はPythonの言語仕様についてであり,ここを理解できればPythonを使った開発を始めることができる.また,整理された構成になっているので辞書代わりに使うこともできる.わからない文法に出会ったらまず本書に載っていないか調べてみれば良いだろう.後半は応用であり,実験データ解析に不可欠なNumPy, SciPy, matplotlibに関する簡潔な導入がある.より詳細な情報はオンライン上のドキュメントやトラブルシューティングを参考にすれば良い.本書の前半で得たPythonの基本知識があればオンラインドキュメントは問題なく読むことができる.本書で実験データ解析に必要な部分は第2~9章(言語仕様),第10章(ファイル入出力と文字列),第13章(テスト),第15章(NumPy, SciPy, matplotlib)である.
  一般的に実行速度と開発速度はトレードオフの関係にあり,Pythonは開発が簡単になる一方で実行速度はC言語等に劣る.「パーフェクトPython」(及び必要に応じたオンラインドキュメント)を読めば, Pythonを用いて実験データ解析プログラムの開発ができるであろう.しかし,対象データが大規模である場合,適切なチューニングや並列化を行わなければ実用に耐えない.「ハイパフォーマンスPython」はそのような高速化技法を詳説した上級者向けの解説書である.Pythonが対象言語であるが,本書で語られる高速化の基本理念はPythonに留まらず他の言語を使う際にも大変参考になるものである.データ解析だけでなく,数値計算を利用する研究者にも是非読んでいただきたい.本書の構成は大きく三つに分けることができる.まず高速化の前提知識としてのハードウェア・アーキテクチャについて,次に単一プロセスにおけるチューニングについて,そして並列計算についてである.具体的には律速箇所の特定方法,リストとタプルの高速化における違い,CythonやPyPy等の処理系の長短所,multiprocessingモジュールの使い方など,高度な内容が実例を交えながらわかりやすく説明されている.筆者自身も本書を読んだ後に自分のコードを見直して改善すべき点に気づいた.また本書の終わりにはPython高速化の事例が紹介されている.
  最後に筆者の経験から物理学においてPythonが推奨される点を幾つか挙げよう.筆者はここ数年Pythonを用いて高温プラズマの実験データ解析を行っている.多変数非線形フィッティングなど,解析の核となる部分はScipyで用意されているものを使っている.またScipyの最適化モジュールでは複数の最適化アルゴリズムが用意されており,引数一つでそれらを使い分けることができる.こういったアルゴリズムを一からCやFortranで書くのは骨の折れる作業であるが,Pythonで書けば簡素に書くことができる.またScipyと呼ばれる記号計算ライブラリを合わせれば,Mathematicaライクに使うこともできる.筆者もコストの低い数値計算は,CやFortranを使わずPythonで済ませている.また物理実験のように,共同研究者や後任者など複数の人が関わる場合,読みやすくメンテナンスしやすいコードを書く必要がある.この点においてもPythonは他言語に優る.
(2016年11月9日原稿受付)



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重点解説 スピンと磁性;現代物理学のエッセンス

川村 光

サイエンス社,東京,2016,iv+156p,26×18 cm,本体2,130円(SGCライブラリ-125)[専門~学部向]ISSN 4910054700565

紹介者:宇田川将文(学習院大理)

  タイムリーな本である.昨年のノーベル物理学賞はトポロジーの多体問題への応用に対して授与された.直接の受賞対象となった業績はKosterlitz-Thouless転移,トポロジカル電子状態,そしてHaldane gap問題の進展についてであるが,その全てについて,本書で言及があることは決して偶然ではない.スピンと磁性はその単純さのために,数々のミニマルな理論模型を産み出す母体となり,新しい物理概念を創出する舞台として長く機能してきたのであろう.本書の序文にあるように,磁性を学ぶのは過去一世紀の物理学を振り返ることに等しい.
  本書の構成はまず,第1章から第10章までは基礎事項の概観に当てられる.第4章まではスピンの量子力学,第5章から第9章まではスピンと磁性に関する物性論的な基礎,第10章では磁性体の臨界現象について詳しく解説される.第11章から第14章まではここ20年程に発展してきた新しい話題から最先端のテーマまでが紹介される.第11章ではフラストレート磁性体と複合自由度の物理について,第12章と第13章はそれぞれスピングラスとスピン液体,そして最後の第14章では遍歴磁性体についての最近の進展が話題となる.
  本書の前半で解説される基礎事項は他書でもカバーされていることが多いが,後半の進んだ内容を理解する上で,基礎事項が簡便に参照できるのは便利である.また,基礎から出発して全体像の有機的なつながりを記述するという著者のスタンスは,未解決の問題に取り組む際に模範となる姿勢でもあろう.例えば,第13章にあるように,スピン液体の起源として,最近は電荷自由度や軌道の効果など,微視的なモデル自体の構造や成立条件が問われることが多いようである.系を記述するモデルの成り立ちから出発して,結論に至るまでのプロセスを丁寧に吟味することにより,思わぬ突破口が開かれる,ということもあるのではないだろうか.   第10章までの基礎事項を消化した後はいよいよ,研究の最先端に筆が移る.後半部の内容を詳述した類書はなく,本書のハイライトと言えよう.
  まず第11章ではスピン格子結合,異常ホール効果(トポロジカルホール効果),トポロジカル励起など,フラストレート磁性体に現れる種々の興味深い現象が解説される.フラストレート磁性体については,「フラストレーションが秩序を壊すので,代わりに非自明な状態が出現するだろう」という論調の,頼りない動機に基づいた研究も多い.しかしながら,この章ではカイラリティの概念を軸として,フラストレート系で何が本質的か,という点が積極的に描かれており,確かな動機をもって研究を開始するための大きな助けになるだろう.特に,本章で解説されるZ2 vortex転移や第12章におけるカイラルスピングラス転移は著者本人によってなされた金字塔的な発見であり,現象の本質を鋭く突いた発見者自身による解説が手に入ることは貴重である.続く第13章のスピン液体については研究現場の最前線におけるテーマであり,本章の内容は将来的にはあるいは変更を受けるかもしれない.しかしながら,実験,理論の現状について要を得たまとめが与えられており,今後の研究展開のための確かな足がかりを与えてくれるだろう.
  本書にただひとつ注文を付けるとすれば,話が詳細に入りかけると,「紙数の都合で」と省略されてしまうことがやや多く目に付く点だろうか.特に最先端の話題については,まだまだ手の内は明かせない,という事情もあるかもしれない.しかし,長く本分野を牽引してきた著者のこと,数々の秘伝をつまびらかにする本書の続編についてもぜひ,楽しみに出版を待ちたいと思う.
(2016年11月1日原稿受付)



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ストロガッツ 非線形ダイナミクスとカオス;数学的基礎から物理・生物・化学・工学への応用まで

S. H. Strogatz著,田中久陽,中尾裕也,千葉逸人訳

丸善,東京,2015,xvii+523p,21×15 cm,本体6,300円[大学院・学部向]ISBN 978–4–621–08580–6

紹介者:郡  宏(お茶大基幹研究院)

  この世界は時間的にも空間的にも複雑で多様性に富んでいます.物理学がこれまでに明らかにしてきた簡潔な自然法則からどのようにそのような複雑性が生まれるのか,たいへん不思議に思います.その秘密を紐解く重要な概念として「非線形性」があります.非線形性とは,数学的には時間発展方程式に非線形項があることですが,平たく言えば,作用と反応の因果関係が線形の関係ではないこととも言えます.現実のほとんどのシステムがこの性質を有します.非線形性によって,システムの挙動は単純な構成要素の重ね合わせではなくなり,構成要素の性質からはにわかには予測できない複雑な構造が生まれます.
  非線形システムの重要な特徴の1つは,分岐と呼ばれる転移現象を起こすことです.これは,物理学で馴染みの深い相転移の,決定論的な類似概念と言えます.例えば,化学反応系において何らかの化学物質の濃度を上げたとき,ある臨界値で平衡状態が不安定化するとしましょう.化学反応を線形の微分方程式で記述すると,不安定化に伴って解が発散してしまいます.しかし,現実には非線形性による押さえ込みがあり,これを適切に含んだ方程式では,単純な解の不安定化に伴って複雑性を増した新たな解が安定化します.このようにしてリミットサイクルと呼ばれる周期解が現れたり,さらには,不安定化のカスケードの果てにカオスと呼ばれる非周期解が現れます.非線形の偏微分方程式においても,空間的に一様な平衡状態の不安定化に伴い,複雑な時空パターンが生まれます.このような分岐は,化学反応系における振動やパターン形成,あるいは,熱対流系におけるベナール・セルの出現や乱流化など,現実の非平衡開放系に広く見られます.非線形ダイナミクスは,不安定化が複雑性の源であるという自然観を与えてくれます.
  本書は,このような非線形ダイナミクスの入門書として世界的に評判の高い教科書の待望の日本語訳です.原著者はこの分野において卓越した研究実績を持つ数学者であるストロガッツで,原著は彼が行ってきた大学の講義にもとづいてまとめられています.数学者の著作と聞くと,定義,定理,証明が中心のかっちりした内容を思い浮かべるかもしれません.ところが本書は,様々な層の読者が抵抗なく読めるように工夫されており,まるでわかりやすい講義を聞いたような爽快感があります.それにもかかわらず,数学的な間違いがないように細心の注意が払われており,安心して読むことができます.内容は,微分方程式系における平衡状態の安定性や分岐といった非線形ダイナミクスの基礎から,振動現象やカオスといった複雑な現象,カオスとフラクタルの関連などの発展的話題までの内容が盛り込まれています.特に,基礎の部分はかなりのページ数を割いて丁寧に解説されており,初学者に親切です.また,機械振動,生物リズム,超伝導回路,生態系,化学反応系など,様々な例が豊富に盛り込まれており,数学的概念と解析手法だけでなく,その応用についても学習することができます.練習問題は基礎的なものから発展的なものまで多数掲載されており,学生の自習に適しています.
  非線形ダイナミクスは今後ますます重要となるであろう基礎的な学問であるにも関わらず,初学者にすすめられるような丁寧な入門書は本書以外に未だほとんどありません.そのような状況でこの翻訳が出たことは,特に初学者にとってたいへんな意義があります.翻訳は,ストロガッツと同じ分野で活躍する数学者,物理学,工学者の3名がタッグを組み,正確に行われ,自然な日本語に仕上げており,原著の魅力はまったく損なわれていません.物理学を学ぶすべての学生に,非線形システムに関わる研究者に,さらには微分方程式によるモデリングや数学的解析手法を学びたい生命科学分野などの研究者に,心よりおすすめできる良書です.
(2016年4月16日原稿受付)



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