2017年10月アーカイブ

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祝 2017年 ノーベル物理学賞

2017年10月3日 一般社団法人 日本物理学会

2017年ノーベル物理学賞を、「LIGO検出器への決定的な貢献と重力波の観測(Decisive contributions to the LIGO detector and the observation of gravitational waves)」の業績により、Rainer Weiss 名誉教授(マサチューセッツ工科大学)、Barry Barish 名誉教授(カリフォルニア工科大学)、Kip S. Thorne 名誉教授(カリフォルニア工科大学)の3氏に授与すると、本日、ノーベル財団が発表しました。

Rainer Weiss 名誉教授は、今回の重力波検出に成功したAdvanced LIGOプロジェクト(米)をはじめ、Virgoプロジェクト(伊・仏)や日本のKAGRAプロジェクトなど、現在の重力波検出器が採用している、レーザー干渉計による検出法を提案した人です。Barry Barish名誉教授は、LIGO プロジェクトのリーダーを務めたこともある人で、現在の形のLIGOチーム(LIGO Scientific Collaboration)をつくりました。Kip S. Thorne 名誉教授は、LIGOによる重力波観測の黎明期から主に理論面での発展において中心的な役割を果たしてきました。これらの業績が評価されて今回の受賞となりました。

[重力波とは]

 "We did it ! " 2016年2月11日10時30分(米国時間)、米国の重力波観測装置 Advanced LIGO の研究チームが、史上初めての重力波の直接検出に成功したことを記者発表しました。一般相対性理論の提唱から100年、アインシュタインの宿題についに答えた瞬間でした。地球から約13億光年の彼方で、太陽の36倍と26倍の質量を持つ2つのブラックホールが衝突したときに発生した重力波が、2015年9月14日に地球に届いていたのです[1]。この重力波は、検出の日付にちなんでGW150914と名付けられました。

 重力波とは、アインシュタインがつくった一般相対性理論がその存在を予言する、光の速さで伝わる「時空のさざなみ」です。

 相対性理論には「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」があります。特殊相対性理論は、我々の住む世界が空間(3次元)と時間(1次元)を一緒にした4次元の「時空」であること、観測者の運動状態によって時間の進み方が進んだり遅れたりすること(双子のパラドックスとして有名)、しかしながら光の速度は運動状態に関係なく常に一定であること、質量とエネルギーの等価性をあらわす有名な E=mc2 などを導く理論です。

 一方、一般相対性理論は本質的には重力の理論です。重力といえばニュートンの「万有引力の法則」がおなじみですが、一般相対性理論とニュートン理論の大きな違いは、それまで「力」だと考えられていた重力の概念を変更し、重力を「時空のゆがみ」としてとらえたことにあります。トランポリンのネットに置かれたボーリング玉の近くにビリヤード玉を置くと、ネットが傾いているので、ビリヤード玉はボーリング玉に引き寄せられるように転がっていきます。これを、2つの物体の間に引力がはたらいていると考えるのがニュートン理論でしたが、アインシュタインはネット、すなわち時空が曲がっていることの結果だとする理論をつくったのです。

 ボーリングの玉を激しく揺さぶると、トランポリンのネットも揺さぶられ、その振動が周りに伝わっていきます。星やブラックホールなど、非常に重い天体の運動によって生じる、4次元空間でおこる同じような振動が重力波です。ニュートン理論では重力の影響は一瞬にして伝わりますが、これは情報の伝達の上限速度が光速であるとする特殊相対性理論に矛盾します。アインシュタインの一般相対性理論は、時空のゆがみは重力波として光と同じ速度で周りに拡がっていくと予言していました。今回検出された重力波は、2つのブラックホールが合体するという激しい出来事が宇宙の彼方で起き、その巨大なエネルギーで時空が揺さぶられて発生したものでした。これが検出されたのです。

 先ほど、「アインシュタイン100年の宿題に答えた!」と述べましたが、重力波はなぜ、100年もの間検出できなかったのでしょうか。

 それは、重力波として伝わってくる時空のゆがみが極めて小さいためです。時空のゆがみとは、具体的には「ものさし」の長さが変わることです。今回検出された重力波によって、4 kmのものさしの長さが、原子1個の大きさの10億分の1だけ変わったのです。それを間違いなく検出したのです。この検出のために、米国の実験装置Advanced LIGOでは、4 kmの長さの真空トンネルのなかでレーザービームを干渉させて測定しました。これほど極微小の長さの変化をとらえるためには、高感度の検出器[2]だけでなく、ノイズの中から重力波を探し出すためのデータ解析手法[3]や、到来する重力波の理論予測[4]との比較といった要素が不可欠になり、それらがすべてうまくいって間違いなく検出したと確証できたのです。

[意義]

 これらの困難を乗り越えて達成された、史上初の重力波直接検出の意義は何でしょうか。

 重力波の検出によって、アインシュタインの一般相対性理論は正しかった、ブラックホールは本当に存在していた、ということがまず言えますが、専門的見地からは、もっとさまざまな意義が挙げられます[1]。もっとも基本的で重要な意義は、私たちが宇宙を見る新しい「目」、つまり新しい観測手段を手に入れたこと、そして、それによって宇宙を調べる新しい天文学、「重力波天文学」が拓かれる第一歩になったこと、といえるでしょう。

 宇宙をみる人類最初の手段は、(可視)光を使った望遠鏡でしたが、現在では、電波、マイクロ波、赤外線、X線、γ線など、あらゆる光(電磁波)による宇宙の観測がなされています。さらに、宇宙からのニュートリノを検出し、2002年のノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊名誉教授(東京大学)らは、「ニュートリノ天文学」という新しい分野を開き、他の手段では「見えない」宇宙の姿を見えるようにしました。今回の重力波の検出も同じように、他の方法では見ることのできない宇宙の姿を明らかにしてくれるはずです。

例えば、今回検出された重力波は、ブラックホール同士が衝突した際に発生したものですが、ブラックホールそのものは光では見えないため、この衝突現象を重力波以外の手段で観測することは極めて困難です。しかし、重力波なら「見る」ことができ、そして、実際に「見えた」のです。

重力波でブラックホールの衝突やブラックホール形成の瞬間が「見える」という事実は、様々な可能性へとつながります。例えば、一般相対性理論の検証です。先ほど、一般相対性理論は正しかった、といいましたが、これはより科学的には、「いまのところ矛盾がない」という意味です。実は、一般相対性理論がどこまでも正しい重力理論であるか、その保証はありません。むしろ、多くの物理学者は、ブラックホールの近くなどで重力が非常に強くなっていくと、どこかで一般相対性理論は破綻し、新しい重力理論にとってかわられると考えています。ブラックホールの衝突を重力波で観測し、一般相対性理論の予言と詳細に比較することで、一般相対性理論を検証し、さらには、それを超えたより根源的な理論を探ることができるようになるかもしれません。ちょうど、アインシュタインの理論がニュートンの理論を超えたように。

重力波天文学の開拓のためには、2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授(東京大学)がリーダーとなって開発が進められている日本のKAGRAプロジェクトの発展も欠かすことができません。重力波検出器は、普通の望遠鏡に比べて位置の決定精度が良くありません。つまり、重力波が来たことはわかったのですが、どこから来たのかがまだ正確にはわかっていません。重力波源の位置を決定するには、GPSの人工衛星のように、複数台の検出器が必要です。ノーベル賞受賞発表の直前の9月27日に、別の重力波GW170814をヨーロッパの重力波検出器Virgo とAdvanced LIGO が検出したと発表されましたが、位置決定精度は約60平方度にとどまっています。

KAGRA も世界的重力波検出ネットワークに加わることによって、全方位体制のより高精度の位置決定が可能となり、さらには、一般相対性理論の検証などの重力波天文学が行えるようになるのです。また、重力波に付随して発生する可能性のある電磁波放射を、位置決定精度のよい光学望遠鏡で追観測することも可能となるでしょう[5]

さらに、日本のKAGRAは世界で唯一、地下(岐阜県の神岡鉱山)に建設され、しかも装置(レーザー反射鏡)が極低温まで冷却されている重力波検出器です[1]。そのため、雑音が極限まで低減できるだけでなく、次世代の重力波検出器に必要な技術がすでに組み入れられているという点でも、KAGRAの発展は欠かすことができません。KAGRAは2020年頃からの本格運用を目指して開発が進められています。最初の重力波の検出は、LIGOチームに先を越されましたが、日本のKAGRAは今後の重力波天文学に大きな貢献をすることが期待されています。

重力波天文学が発展すれば、そのほかにも、中性子星の内部を調べる[6]など、さまざまな謎を解くカギがもたらされることが期待されます。重力波の直接観測によって、100年前に出されたアインシュタインからの宿題が解かれ、これまで見えなかったものが見えてくる、新しい宇宙研究の時代が幕を開けました。ガリレオ・ガリレイが自作の望遠鏡で月を観察してから、数多くの宇宙の謎が解かれてきたように、重力波の観測が宇宙や重力の謎の解明へとつながる、そんな画期的な時代への扉が開かれたのです。


専門的な解説は、日本物理学会誌に掲載された下記の記事を参照してください。

[1] 田越秀行, 中村卓史 「重力波の初の直接検出とその意義」,
日本物理学会誌 71巻4月号, 210-211ページ, 2016年

[2] 川村静児 「アインシュタインからの宿題:重力波の検出」,
日本物理学会誌 70巻2月号, 125-129ページ, 2015年

[3] 田越秀行, 伊藤洋介, 端山和大 「重力波の観測とデータ解析」,
日本物理学会誌 72巻3月号, 158-166ページ, 2017年

[4] 柴田大 「数値相対論の展開」,
日本物理学会誌 70巻2月号, 134-139ページ, 2015年

[5] 久徳浩太郎, 仏坂健太 「重力波を聞き、電磁波を見る‐電磁波対応天体」,
日本物理学会誌 69巻5月号, 319-323ページ, 2014年

[6] 木内建太, 関口雄一郎 「連星中性子星合体からの重力波及びニュートリノ放射」,
日本物理学会誌 67巻8月号, 560-565ページ, 2012年

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日本物理学会では,この分野の研究に関して学会誌を通して発信していく予定です。
また,受賞理由のより詳しい解説がノーベル財団のサイトで見られます。

第73回年次大会(2018年)(於 東京理科大学野田キャンパス)より、大会中の共催シンポジウム枠を新設することになりました。開催形式、共催費など詳細については、http://www.jps.or.jp/activities/meetings/joint_symposium/をご覧ください。

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論文一覧 http://journals.jps.jp/toc/jpsj/2017/86/10
Preface http://journals.jps.jp/doi/suppl/10.7566/JPSJ.2017.86.10/suppl_file/Preface_86-10.pdf

掲載巻号:Vol. 86 No. 10
論文数:14編

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